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また此処に戻ってくるなんて思ってもみなかった。


でも、それは必然だったのかもしれない。



あれから5年、あの人のことを忘れたことなんて一度もなかったから。




久しぶりに見たあの人は見た目こそ何一つ変わっていなかったけれど、纏う雰囲気が違っていた。昔の彼は自堕落な人でお調子者でお人好しで、でもいつも何処か辛そうで悲しそうで、何より寂しそうだった。
だけど今は、とても幸せそう。後ろも前も見ることが出来ていなかったのに、そんな姿は何処かに捨ててきてしまったみたい。いや、きっと違う。昔もちゃんと見ていたけれど、それを私には見せなかっただけかもしれない。あの頃の私は、一緒に堕ちる事は出来ても、あの人を掬い上げて光のある方へ連れて行ってあげることは出来なかった。


きっと今だってそう。彼の近くにいるべきなのは私じゃない。私なんかじゃ、夜を照らす月にはなれない。なれたとしてもそれはきっと月の周りに輝く小さな星だ。だから、彼を街中で見かけた時その纏う雰囲気から月のような存在が、彼の周りには沢山いることがわかって嬉しかった。それだけでもう十分だった。十分だったのに、通り過ぎたその背中が、最後に見た背中と重なって、泣いているんじゃないかと思ってしまって、呼び止めてしまった。勿論泣いているわけがなかったのだけれど。




私の目の前で話す彼はやっぱり私といた頃とは全然違った。嬉しいのと同時に、話しかけるべきじゃなかったと後悔した。私はもう過去の人だから、この人の前に現れるべきではなかった。

同じかぶき町にいるだけでも十分幸せだったのに。側にいなくとも幸せそうにしているならそれでよかったんだ。私たちは関わる必要がもうない。関わってはいけない。きっとこの人も今、目の前で同じことを思っているはず。だから隣に立つ男の子のことは聞かなかったしこの人も言ってこなかった。話しかけた以上違和感のないように終えるために果たされないと知りながらも約束をして、早々にその場から離れた。

またその背中を見てしまったら触れたくなってしまうから見ないように後ろは振り返らず店の中に隠れて暖簾の向こうまで小走りで店内を進み、逃げ込んだ。足の震えがとまらなくてその場に蹲み込む。


「穂花ちゃんどうしたんだい?何かあったのかい?」
「あ…、大丈夫です。ちょっと立ちくらみで」
「そうかい?あんまり無理するんじゃないよ。ちょっと休憩しなァ」
「…ありがとうございます」


親父さんの言葉に甘えて裏口から店の外に出て、息を深く吐き切る。呼吸も上手く出来ない程、余裕がなかったことに気がつく。上手く笑えていたかな。涙が出そうなのを堪えて話していたこと、気付かれていないかな。目敏くて勘の鋭い人だったから、気付いていないフリをしてくれたのかもしれない。例えそうだとしても、もうなんでもよかった。あの人が笑ってさえいれば、私はそれでよかった。関わることができなくても、同じ空の下、このかぶき町で再び暮らせるだけで私は幸せだから。


泣きそうになっていたのは、ただ、会えたことが嬉しかっただけだ。


ただそれだけ。