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「さぁ、穂花さん。今日こそは銀さんとの昔話聞かせて下さいね」
「え、えええええ…」


仕事が休みだった今日はお妙ちゃんの家にお呼れして遊びに来ていた。神楽ちゃんもいると聞いてお菓子をたくさん買い込んで行ったら家に着くや否やお妙ちゃんに腕をがっしりと掴まれて冒頭の台詞に戻る。ただの楽しいお茶会じゃなかったんだ。適当に誤魔化しながら案内してもらう。神楽ちゃんは先に着いていたようで私を見つけると伏せていた体を飛び起こして駆け寄ってきてくれた。

「穂花ー!今日は女子会アル!」
「ふふ、そうだね。女子会楽しもうね」




持ってきたお菓子を机に広げてお妙ちゃんが淹れてくれたお茶を飲む。まだ外は肌寒いから温かい日本茶が冷えた体を内側から暖めてくれる。もう一口飲もうと湯呑みに口をつけた時、湯気の向こうでお妙ちゃんが満開の笑みを浮かべているのが見えた。

「で、穂花さん。銀さんとはいつ付き合っていたんです?」
「…っげほ、ごほっ」
「やっぱり銀ちゃんと付き合ってたアルか?!」
「こほっ、つ、付き合ってないよぉ…」

仲良くなってから会えばあの人とのことを聞いてくるお妙ちゃんには困り果てていた。今まではなんとか躱してきたけど今日は逃す気がないらしい。私が話題を変える前にそのまま畳み掛けるように話を続けられた。

「じゃあ、どういう関係だったんですか?ただのキャバ嬢と客じゃないわよねェ」
「穂花キャバ嬢だったの?初耳アル」
「あ、うん。昔すまいるで働いてたんだよ。本当にキャバ嬢とお客、「違いますよね?」…プライベートでもよくしてもらってました」


少しくらいなら話しても問題ないのかな。もうお妙ちゃんの追求から逃れられる気がまるでしなかった。二人から期待の眼差しで見つめられているのがわかって、気恥ずかしさを隠すようにお菓子に手を伸ばして、封を開ける自分の手元から視線を外さずに口を開く。

「私、事件とか面倒事とかに巻き込まれやすくて、そういう時に坂田さんがいつも助けてくれていたの」

こうやって言葉にするだけで胸が暖かくなって、頭に焼き付いた記憶や思いが簡単に姿を見せる。私の向かいに座る神楽ちゃんが身を乗り出してきた。

「じゃあじゃあっ銀ちゃんと仲良しだったアルか?」
「そう、だね。仲良くしてもらってたのかな。私江戸に来たばかりで親しい知り合いが坂田さんしかいなかったから…あ、でもお登勢さんにもお世話になってたよ」
「ババァのことも知ってたアルか!万事屋にもよく来てたの?」
「あら、じゃあ同棲とかしてなかったんですか?」
「えー!同棲ってあれアルか!男と女が家でいちゃこくアレアルか?!」

あれ?なんだかこれ根掘り葉掘り聞かれる感じなのかな。
二人の目はキラキラと輝いていて、早く話せと訴えてくる。言えないことの方が多くて言葉を選びながら話そうと思うけれどなかなか難しい。

「万事屋によく行っていたの。助けてもらったお礼にご飯作ったり掃除したり…」
「なんか家政婦みたいアル」
「お礼とかいらないって言ってくれたんだけど、申し訳なくて」
「穂花さんそんなにいろんな事件に巻き込まれていたんですか?」
「うん。巻き込まれたり…ストーカーとか、絡まれたりとかいろいろね。よくあの人に怒られてたよ」
「アイツ自分のこと棚に上げすぎアルな!」
「そうねェ。天パのくせにねェ」


5年前のことを思い出してみると、ほとんどがあの人との思い出だった。助けて貰うか、そのお礼か、そんなことばかりだった。神楽ちゃんや新八くんが話してくれたような出来事なんてひとつもない。

きっと、あの人にとって私は闇夜を照らす月でも、月の側を輝く星ですらなかった。おそらく月を覆い隠してしまう雲。闇をより色濃くさせるそんな雲のような存在。

「穂花さん?」
「どうかしたアルか?」

でも、今あの人の周りにいる人たちは、月じゃなくて太陽みたいな人ばかり。お妙ちゃんも神楽ちゃんも、本当に眩しいくらいに輝いている。

どんなに暗い夜でも必ず朝がやってくる。闇に射すほんの小さな光じゃなくて、闇を全て消し去るくらいの光で溢れた人たちのおかげであの人は、独りでいられなくなったんだ。


「坂田さんが、独りじゃなくてよかったなぁって」


なんだか自分のことのように嬉しくなって頬が緩む。私の言葉にお妙ちゃんは何かを感じ取ってくれたのか何も言わずにただ微笑んでくれた。そんな私たちを顔を左右に振って見比べる神楽ちゃんはよくわかっていないらしい。

「どういう意味アルか?私だけわからないなんて嫌ダヨ!教えてヨ〜穂花〜」
「神楽ちゃんもそのうちわかるわよ」

お妙ちゃんがそう言っても納得できないらしく机に顔を伏せて拗ねてしまった。その明るい髪にそっと触れてゆっくりと撫でる。神楽ちゃんはぱっと顔をあげると陽だまりのような笑顔で私の闇夜にも光を灯してくれた。


「でも、穂花ももう独りじゃないネ!私たちがいるヨ!」



ずっと暗い所にいた私には眩しすぎたけれど、その暖かさは確かに朝に感じる幸せに満ちた光だった。