僕らの非日常物語2(振り)

▼明日から夏休み

ピンポーン、とチャイムが鳴った。

昼食はスパゲッティしようと、茹でた麺に具を混ぜていた○○は作業を一旦止め、エプロンを付けたまま玄関に向かった。宅配便か何かだろうか。そう思い、玄関先にある印鑑に手を伸ばす。それから扉を開いた。

「○○さん、こんばんは!」

そこにいたのは宅配便の人ではなく、近所に住んでいる阿部さんだった。

「こんばんは、阿部さん。今日はどうしたんですか?」
「○○さんにお願いがあって来たんだけど…、」
「あ、なら、家に上がって下さい。立ち話も何ですから」
「そう?じゃあ、お邪魔するわ」

○○は阿部さんを居間に案内してから台所に入る。お茶とお茶菓子を用意して、阿部さんの所に向かった。

「あら、ほんとごめんなさいね」
「いえいえ、」

コトリと阿部さんの前に湯飲みを置く。テーブルを挟んで阿部さんの前に座り、○○も一口お茶を飲む。

「あの、ところで、お願いというのは…?」
「あ、そうそう!」

お茶を飲んでまったりしていた阿部さんは思い出したように言う。

「○○さん、明日から夏休みでしょ?」
「ええ、まあ」
「幼稚園も明日から休みなんだけど、私、明日から三日間お仕事入っちゃってるのよ。だから○○さんに隆也の面倒を見てもらおっかなって」
「はあ、」

何ともいきなりすぎるお願いだと○○は思った。隆也、とは阿部さんの子供で歳は五歳と聞いている。○○は喋った事はなく、スーパーなどで阿部さんと一緒にいるのを見た事がある程度だった。

「…何で私なんですか?」
「えっ、○○さんどうせ暇でしょ?」
「そりゃあ、まあ…、」

自分はどう見られているのだろうか。少しばかり不安になる○○だった。

「お願い、○○さんしかいないのよ」
「…えーっと……」
「………」
「………」
「………」
「…いい、ですよ」
「ほんとっ!?やっぱり○○さんは頼りになるわ!」

最初は渋っていた○○も、阿部さんの有無も言わせない視線に負け了承する。すると、阿部さんの表情はぱあっと明るくなった。○○の手を握り、ぶんぶんと何度も振る。

「朝九時くらいに隆也を預けに来るわ。遅くても六時には迎えに行けると思うから…、」
「…分かりました」
「○○さん、ほんとありがとう!じゃあ、また明日!」

阿部さんはにこやかな笑顔で帰っていく。相変わらず嵐みたいな人だと○○は密かに思った。
お茶の片付けをしようと台所に入り、ある事に気づく。

「あ、麺伸びてるかも」

そう言った途端、お腹がぐーっと鳴った。

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