02. あいつと俺
入学式が終わって、高校生活に慣れ始めた頃に席替えをした。名字と席が隣になってからもうすぐ一ヶ月。でもこいつと会話したことはあまりない。
はっきり言うと俺はこいつが好きだ。一方、こいつは俺に嫌いないのか殆ど俺に話しかけてこない。
篠岡と仲が良いのは分かるけど、最近は俺と同じ野球部である花井や水谷とも楽しそう話をしている姿を見かける。そして時々花が咲いたような笑顔を見せるのだ。こういう姿を見る度にこいつは花井とか水谷とかの事が好きなんだろうか、と思う。それだけ彼らに対する接し方が俺のと違う。三橋もそうだが、俺がこわいからかもしれないけれどあからさまに避けられるのは寂しいものだ。
「阿部くん」
「お、おう、何だ」
急に名前を呼ばれ、思考するのを止めた。隣の席に座っていたこいつは、はい、と一枚の紙を遠慮がちに差し出してきた。それには数学小テストと書かれていて、こいつは赤ペンを持っている。
「隣の人と答案交換して採点だって。私、阿部くんのやるから私のお願い」
「ん、分かった」
こいつは俺の答案を受け取るとシャッという音とともに丸を付けていく。俺もそれにならい、こいつの答案に丸を付け始める。あ、ここ惜しい。
「阿部くん、すごいね」
「へ、何が」
「満点だよ」
こいつは自分が満点だった訳でもないのに嬉しそうに笑いながらそう言った。初めて見たような笑顔。阿部くんどうしたの?、とこいつに言われるまで俺は惚けていた。顔が熱い。
俺はこいつがどうしようもなく好きなのだ。
090605
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