02. やさしい雨音


雨がザアザアと降る中、俺は全力で自転車を漕ぐ。家を出た時は降ってなかったのに、半分くらいまで来た所でいきなり降ってきた。今から家に戻るのも遠いし、そのまま学校へ向かう事にしたけれど。ああ、朝からついてねー。確か天気予報のお姉さんは、今日は降らないって言ってたはずなんだけどなあ…!


何とか学校に着き、駐輪場に自転車を置く。日が出ていなくて暗いせいか、いつもよりも辺りが静かに感じた。誰もいないような錯覚に陥る。

「…そりゃあ、まだ時間早いもんなあ」

何だか緊張してきて、俺は駆け足で昇降口に向かった。
昇降口には誰もいなかった。ぶるっ、と体が震えた。早く教室行って体拭かないと、そう思ってスニーカーから上履きに履き替える。

「…あ、」

不意に人の声がして、思わずドキリとした。勢いよく振り向くとそこには、昨日七組で見た女子だった。そいつは俺の姿を見て目を真ん丸にして、慌てて鞄の中を漁り始めた。何事かとその様子を見ていると、女子はそこからタオルを取り出して俺の頭に被せてきた。

「えっ…?」

いきなりの事に反応できなかった。思わず女子を凝視してしまう。

「…これ、」
「このままだと風邪引いちゃうから…。それ、使って」
「あ…、どうも」

礼を言うと女子はにこりと笑って、それから上履きに履き替えた。そのまま教室へ向かおうとする姿を見て、慌てて呼び止めた。

「ちょっと待って!」

俺の声に女子はくるりと振り返る。俺はそいつの隣まで走った。

「俺、泉孝介。お前は?」
「名字名前だけど…」
「名字、な。タオル、ちゃんと洗って返すから」
「あ、うん」

そう言うと、名字はコクンと頷く。俺たちは自然と、どちらともなく歩き始めた。俺の隣にはこいつ。
七組や九組は昇降口から遠い。やっと半分の所に来た時、そういえば、と名字が口を開いた。

「昨日、怪我なかった?」
「昨日って…ああ、平気だったけど」
「そっか、なら良かった」

名字はそう言うと、前に向き直った。それっきり会話がなくなる。
暫く歩いて、ふと顔を上げると七組と書かれたプレートが視界に入った。

「じゃあ、ここだから」
「あのさ、」
「ん、なに?」
「これからも宜しくな」

俺の言葉に名字はにこりと笑って頷いた。またね、と言って教室に入っていく名字を見送って、それからまた歩き出す。
九組に到着し、自分の席に座る。名字から借りたタオルを頭に被ったまま机に伏した。ふわりと、優しい匂いがした。


100417


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