初めての後輩


「この度図書委員会になりました、一年い組の能勢久作です」

目の前に座る、水色の装束を身に付けた少年がやや緊張した面持ちで自己紹介をする。しっかりしている子だなあ。名前がそう思っていると、隣からふふ、と笑い声が聞こえた。

「そんなに畏まらなくてもいいのに。僕は四年ろ組の不破雷蔵、こちらは五年ろ組の中在家長次先輩」
「……」
「そして、この子が三年い組の名字名前だよ」

雷蔵に紹介され、名前は軽く会釈をした。

「同じ委員会として宜しくね」
「宜しくお願いします」

それでは、委員会活動を始めましょう。雷蔵が翻訳した長次の言葉に、各々仕事を開始した。



名前の今年度初めての仕事は久作に図書委員会のやるべきことが何かを教えることだった。
図書室の片隅で机を挟んで座る二人。ちらり、と久作が名前の様子をうかがってみると、その顔には何の表情も浮かんでいない。不破先輩は優しそうな人だったけれど、この先輩は恐い人なのだろうか、と内心震え上がった。
そんな久作の心情も知らず、名前は先程から一言も喋らない久作に首を傾げていた。顔も下を向いているし、何処か具合が悪いのかもしれない。自分だったらきっと緊張のし過ぎでお腹痛くなるだろうし…。名前は意を決して話しかけた。

「ねえ、」
「は、はい!」
「何処か具合悪いの?」
「いえ、そういう訳ではないんです…、すみません…」

更に俯いてしまった久作に名前も表情を暗くする。
名前にとって久作は初めての後輩であり、どのように接していけば良いのかをいまいち掴めずにいた。仲良くしたい、けれどもどうすれば良いのか分からない。…そういえば、と名前は一人の友人が言っていたことを思い出した。

「久ちゃん、」
「…へ、」

名前の言葉にがばり、と顔を上げた久作はとても驚いた表情をしていた。

「久ちゃんって、何ですか?」
「君のあだ名」
「僕、そんな風に呼ばれたことないんですが…!」
「でも、僕はそう呼ぼうと思う」
「…何でですか?」
「君と仲良くなりたいから」

仲良くなりたいならあだ名付けてみるのもいいと思うよ。それは、同じい組の生徒と仲良くできない名前に数馬がした助言だった。依然として驚いている久作に、名前はにこり、と笑いかける。

「同じ委員会だし、学年一つしか変わらないんだから。僕は君と仲良くなりたいな」

そう言って差し出された手を、久作はまじまじと見つめた。やがて、おずおずと、自らの手をその手に重ねる。名前は嬉しそうに目を細めた。

「これから宜しくね」
「はい、宜しくお願いします」

握手を交わし、相手の顔をうかがってみる。名前の表情には先程とは違い、控え目ながらも笑みが浮かんでいて。人は見かけによらないものだなあ。そう思いながら、久作は嬉しそうに笑う名前につられて笑った。


120421


ALICE+