視点を変えてみれば
「…あっ、」
突然、藤内が声を上げた。その隣を歩いていた数馬は何事かと藤内の顔を見た。
「どうしたの、急に」
「ほら、あそこ、」
「もう、何があるの?…あ、」
藤内が見ている方へ視線を移した数馬はその先にあるものを見て固まった。二人は顔を見合わせる。
「あ、あれって、名字名前…?」
「うん、そうだと思う」
「…何やってるんだろう?」
ちらりと名前の方をうかがう。名前は忍たま長屋の縁側に座っていた。本を読んでいるわけでもないしお茶をしているわけでもない。ただ、座っているだけ。
「…やっぱりあの噂って本当なのかな?」
「“一年い組の名字名前は異常である”ってやつ?」
「うん、だって一人でいるし、何か…何考えているか分からないし…、」
人間らしくないって言われても納得できるよ。数馬の言葉に藤内はそうかもしれないと頷いた。
話し合った結果名前には深くかかわらないほうが良いという事になり、二人は面倒事が起こる前にこの場を去ろうとした。が――
「あ、藤内に数馬」
背後から聞こえた声に藤内と数馬が振り返ると、そこには作兵衛がいた。どうしてこんな時に…、早くここから立ち去りたいのに…!そう思い顔が強張った二人に作兵衛は首を傾げる。
「どうしたんだ、二人とも」
「…いや、別に」
「そうか?…あ、名前だ」
名前の姿を見つけて親しそうに名前を呼んだ作兵衛。その様子に今度は二人が首を傾げた。
「…ねえ、作兵衛」
「ん、何だ?」
「作兵衛って名字名前と仲良いの…?」
「ああ、友達」
「ええっ!?」
「うそっ!?」
「嘘じゃねえよ、本当だ、本当。…あ、もしかしてお前ら名前と友達になりたいんだろ?」
「い、いや、別に…」
「遠慮するなよ、今呼んでやるから」
「え、ちょ、さくべ…」
「おーい、名前!」
作兵衛の声に名前はゆっくりとこちらを向いた。縁側から立ち上がり近づいてきた名前に藤内と数馬は顔を青くさせた。
「…作兵衛、どうしたの?」
「こいつら、は組の浦風藤内と三反田数馬。俺の友達なんだけどさ、」
「……そうなの?」
ぐるり、と藤内と数馬の方に顔を向けた。ええええっ!?ちょ、待ってよ…!パニックに陥った二人を気にせず、名前はじっと見つめる。
やがて名前はふっ、と表情を緩めた。
「…宜しくね」
そう言って手を差し出した。ぽかんとしていたら作兵衛に小突かれ、二人は慌てて名前の手を握った。
(…あ、)
手を握って初めて気付く。温かいその手は確かに名前が生きている事を示していた。
もしかしたら自分たちはとんだ勘違いをしていたのかもしれない。名前と握手を交わしながらそんな事を思った。
「ところで、名前は何をやってたんだ?」
それは、は組の二人も先程から気になっていた事。作兵衛が尋ねると名前は不思議そうに作兵衛を見た。
「…ぼーっとしてた」
たった一言、呟かれた言葉に三人はあんぐりと口を開けた。何かつっこみを入れようとしたが、嬉しそうに微笑んでいる名前を見るとその気が失せてしまった。
「縁側でぼーっとするの、好き」
何とも人間らしいご趣味なこと。
100509
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