08. 見つけた答え


目を開けると、視界に入ったのは見慣れない天井。どうやら自分は長い夢を見ていたようだ。さて、ここはどこだろうかとぼんやりと考えていると、不意に頭上から声がした。

「大丈夫かい?随分とうなされていたようだけど…」
「あ、はい、大丈夫です」

心配そうに尋ねてきた伊作に、名前は平気だと告げ体を起こした。あの時、急に気持ちが悪くなったのは覚えているけれど、それ以降の記憶がない。

「…何で医務室に?」
「倒れた君を田村がここまで運んでくれたんだよ」
「そうですか」

田村には悪いことをしたなあ、と名前は心の中で謝罪した。
少し落ち着いたところで、部屋の中を見回す。萌黄色の彼はいないようだった。視線の先で作業をしている伊作に声をかける。

「あの、山田先輩」
「山田じゃあないってば!どうして君は覚えてくれないの?!」
「冗談ですよ、善法寺先輩」
「…へ、」

ぽかんと呆けている顔が面白くて、思わず笑みがこぼれた。伊作は訳が分からないと目をしきりに瞬かせる。

「え、今、僕の名前呼んだ…?」
「はい、呼びました。六年は組、保健委員会別名不運委員会委員長の善法寺伊作先輩」
「…君って記憶障害じゃなかったの?」
「似たようなものですけれど、先輩酷いですね」
「ごめんなさい。でも、何で急に僕の名前を?」

それは単純な疑問。今まで人の名前を覚えられなかった人間が突然その人の名前を呼んだのだ。
名前はそんな伊作の問いに答える。

「覚えた、というか思い出しました」

そう言って、名前は苦笑した。

「思い出した、ということはただ忘れていたということかい?」
「はい、記憶はちゃんと蓄積されていたみたいですね」

例えるならば、以前の自分は記憶の引き出しに鍵が掛かっていた状態。それがきっと、あの夢を見たことで鍵が外れたのだと名前は考える。自分が忘れん坊になったきっかけ、どうやら自分は大変なことを忘れていたようだ。

「ところで、善法寺先輩、伊賀崎はいますか?」
「さっき数馬が呼びに行ったからもうすぐ来ると思うけれど、」

数馬というと、確か保健委員三年のあの子かと思い出している、廊下からどたばたと足音が聞こえてきた。


「名字先輩っ!」


戸を勢い良く開けて医務室に飛び込んできたのは予想通りの彼で。名前はにこりと微笑んだ。

「伊賀崎、」
「名字、先輩…?」
「会いたかった」

そう言うのと同時に、名前は孫兵に近寄り、その体を抱き締めた。
私が伊賀崎の名前を覚えていたのは、きっと――


120409


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