さくら
最近になって気付いた事。図書室の隅にはいつも決まった人物が座って本を読んでいる。くのたま、けれどもどの学年かは分からない。中在家先輩は前から気付いていたみたいで、何度か親しげに話をしている姿を見かけた(とはいっても中在家先輩は声が小さいので、くのたまが一方的に話をしているように見えたけれど)。
今日も彼女は図書室の隅で本を読んでいる。窓からの日差しが反射してきらきら輝いているように見えた。ぼんやりと彼女の方を見ていると、立ち上がってこちらへやって来た。
「貸し出しをお願いしたいのだけど、」
そう言って彼女は数冊の本を差し出した。そういえば今日の当番は自分しかいない。
「あの、お名前は…?」
「名字名前よ」
貸し出し票を探すために名前を尋ねると、彼女はすぐに答えた。教えてもらった名前を頼りに探し出し、本の題名と日付を書き込む。
「はい、これで大丈夫ですよ」
期限は、と言ったところで、彼女が自分をじっと見ていることに気が付いた。
「…何でしょうか」
「そんなにかしこまらなくていいのに」
「え、」
「私も二年だから」
君も二年でしょ?その問いに頷くと、彼女は笑った。
「名前は?」
「能勢久作だけど、」
「能勢くんだね」
よろしくね、と彼女はもう一度笑った。
それから、彼女と仲良くなっていった。主に彼女と会うのは図書室で、さすがに中在家先輩がいるとできないけれど、会えば話をするようになった。彼女と一緒にいる時間は落ち着くし、彼女との話も面白くて、いつの間にか委員会の仕事に行くのが楽しみになっていた。
「久作、そんなに嬉しそうにしてどこ行くんだ?」
「委員会の仕事だよ」
「何かいい事でもあるのか?」
「ん、まあね」
図書室に向かう途中で三郎次と左近に会った。二人の問いに答えると揃って首を傾げたので詳しく言った。
「気の合う女子がいつも図書室に来ているんだ」
そう言うと、三郎次が何かひらめいたのか、ぽんっ、と手を叩いた。
「なんだ、そういう事か」
「どういう事さ?」
すかさず左近が尋ねる。三郎次はにやりと笑って言葉を続ける。
「なあに、簡単なことさ。久作はそいつの事が好きなんだよ」
「なっ?!」
三郎次は面白そうに、左近は珍しそうにこちらを見てきた。急いで弁解する。
「そんな事ないから!」
「本当にぃ?」
「本当だ!」
まだにやにやと笑っている三郎次に、居た堪れなくて踵を返してその場を立ち去った。後ろで、そんなに怒るなよー、と声が聞こえたけれど無視をした。しばらく許してやらない。
図書室の前に到着して、物音がしていない事に気が付いた。彼女はまだ来ていないのだろう、中に入ると人影はない。貸し出し待ちの人が待ってたら悪いよなあ、一番に来れて良かった。そう思いながら何気なく窓の方を見て、驚いた。いないと思っていた彼女はもうすでに来ていた。けれども、彼女はこちらに気付く事なく下を向いている。
「名字さん、来るの早いね」
声をかけてみるが反応はない。不思議に思って彼女に近づいてみると、彼女は壁に寄りかかって眠っていた。すうすうと寝息が聞こえる。
「…疲れているのかな」
窓から差す光のせいか、本当に気持ちよさそうに眠っている。ここで、彼女をまじまじと見ている自分に気付き、慌てて目を逸らした。先程の同級生とのやり取りを思い出してしまい、彼女を意識してしまう。三郎次のせいだ、どうしてくれよう。
ふと彼女の髪に目が留まった。やはり女子だからだろうか、自分とは違って長くてつやのある髪。思わず一房取ってみる。
「…ん、」
不意に彼女が身動ぎし、その目が開けられた。何回か瞬きした後こちらを見た。
「…能勢くん?」
突然の事で声が出なくて、こくんと頷く。くすりと彼女に笑われて、恥ずかしくなって持ち場に戻ろうとした。けれども裾を引っ張られてそれも叶わず。
「このまま側にいてほしいな」
そう言って笑う彼女はきらきら輝いていて、とてもきれいだった。
110322
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