白線堂々
「名前ちゃん…!!」
「苗字!!」
バタバタと急ぎ足で長い廊下を駆けていく二人をチラリと見る者はいても、咎める者は誰もいなかった。
警察病院のある一室。松田と萩原は、勢い良く扉を開ける。この中にいる者が男の友人でも、彼等は同じ行動をしていただろうが、情報処理中に、負傷者リストに見た苗字名前という名前と、萩原の携帯に送られてきた友人のメールが、二人の気持ちを余計に焦らせた。
その白い部屋は、最低限の関係者が入った形跡しか無く、見舞いの品も当然無かった。中央にて目を閉じている女は、その痛々しい傷や包帯を除けば、本当に眠っているだけのような穏やかな表情だ。
*
『──至急応援願います…!』
『三丁目の喫茶店にて……負傷者多数──……』
無線から聞こえる仲間の焦りを含んだ声に、萩原は難しい顔をし、松田は舌を鳴らした。彼らを先頭にした第一爆発物処理班が今いる場所は、人気の無い路地裏。目の前には、線の切られた爆発物が二つ置かれていた。そして、先程無線から聞こえてきた場所には、第二爆発物処理班が向かう指示だったはずだ。
「おい、どういうことだ」
「あっちが本命か…」
松田は、声や顔に表れる苛立ちを抑えることはしなかったし、普段なら止める萩原も、今回ばかりはそれを止めなかった。
「爆弾がある!」と通報があったのは、早朝で、そこからの動きは早かった。まず第一に現場に駆けつけ、民間人の安全の確保。そこから、それの対応に当たった。
「終わったぜ」
「こっちもだ」
通報があったのは一つだが、実際、路地裏にあったのは二つ。一つを松田、残りの一つを萩原が担当し、それぞれ処理始める。
爆発物の解体は、彼らに任せればスムーズであった。しかし、無事に二つを処理し、一服しようとした時、無線から仲間の応援要請の声が聞こえてきた。
松田と萩原は、ポトリと無意識に落とした火のついていない煙草に気付かないまま、爆発物を回収し、車へと急いだ。
現場に着いた萩原は、唖然としていた。爆弾の威力は最小にしても、被害が酷すぎた為だ。おそらく爆弾が置かれていた場所は、喫茶店の男性用トイレ。その辺りが、跡形もなく吹っ飛び、焦げ臭い臭いが漂っている。目を移せば、店の外で、怪我人が横たわっていたり、蹲っていたり、と。上空には、ヘリが飛んでいる。
現場の悲惨さに目を奪われ、思わず、ギュッと拳を握った。
「萩原」
情報を正確に、そして確実に脳に入れていた萩原に、松田は、「出番は無いとよ」と続けた。その言葉は、つまりは、此処には爆発物はもう無いという示していて。この状況に安心して良いか分からないが、萩原は、一先ず息を吐いた。
*
病室の光景に、二人は舌を打った。
爆発現場で情報収集をしていれば、目に入ったのは、負傷者リスト。急ぎ目でその資料を追っていた時、その中に有って欲しくない名が記されていた。苗字名前、かつての警察学校での同期の元恋人で、松田と萩原の友人の名だ。思わず、「は?」と声を揃えてしまったのは、仕方が無かった。
そして、そこに追い打ちが掛かる。
ブブ、と萩原の携帯が鳴った。
携帯の文を目で追っていた萩原の、「クソっ」という声に、松田は苛立ちと驚きの感情交ぜた顔で見た。頭のどこかで同姓同名の別人だ、とそう思いたかったが、現実はそうでは無い。
名前を含めた三人の、共通友人の「名前がそこにいる」というメールに頭をガツンと打たれた気がした。
病室で目を閉じていたのは、良く知る苗字名前であった。