140字ssと書きかけ



140字前後の文章と
書きかけで止まった中途半端な文章。
既に短編になってるのもあります。

さっきまで晴れていたのに、雨が降ってきた。買い物に行った司書は傘を持って行っただろうか。ドアが勢いよく開き、ずぶ濡れになった司書が飛び込んでくる。大丈夫かと言いかけて、言葉に詰まる。おい!と呼び止め、さっさと着替えてこいと急かす。きょとんとしたあいつはさすがに無防備すぎる。
(137字/佐藤春夫)

着色

本来白いはずのご飯が青くなっていた。ちょっとした悪戯ですと笑う先生に何やってるんですかと注意する。わざわざ青くする意味がわからない。青は食欲を抑制する効果があるんだから、染めるなら美味しそうに見える色にしてください!と言ったら、そういう問題じゃないだろと外野から怒られた。
(136字/江戸川乱歩)

「死は特別なことじゃないんです」尤もらしいことを連ねた文章より、ずっと重く響いた。「綺麗に書くのも、悲劇的に書くのも、多分違うんです。死は当たり前のものです」柔らかな風が司書室のカーテンを揺らし、あなたは我に返ったように笑みを浮かべた。もうこの話は終わりと告げるように。
(135字/堀辰雄)

庭で猫を撫でながら、あの子は猫みたいだとぼんやり思う。近付いてきたかと思えば、突然素っ気なくなったりする。錬金術だか何だか、専門分野の研究には没頭する割に、興味がないことにはとことん無関心。どんな文豪相手でも自分のペースは崩さない。まあ、猫は好きだし、猫に懐かれる方なんだけどな。
(140字/室生犀星)

わからないと思うのはわかりたいからで、わかりたいと思わなければ、壁はもっと分厚くなってしまう。でも、理解できると思うのは傲慢だ。その時代を知らない私には、どうしてもわからないことはきっとある。それでも、少しでも近付いて寄り添いたいと、時折浮かぶ寂しげな表情を見て思う。
(134字/小林多喜二)

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