流星の行方
流星群のふる夜、ガラスにひびが入っていた温室できれいな石を拾った話をしてください。
(診断メーカー「さみしいなにかを書くための題」)


流星群を見ようと言い出したのは誰だっただろう。庭にビニールシートを敷き、そこに寝転がって空を見た。これじゃあ有り難みがないんじゃないかというくらいに降り注ぐ星々は夢のように、嘘のように綺麗だった。
時間を忘れて夜空に見入っていたら、袖をくいっと引っ張られた。宮沢先生がにっこり笑って私を見つめていた。どうかしましたかと問えば、先生は静かに起き上がって手招きした。とりあえず私も起き上がって追いかける。
宮沢先生は懐中電灯を片手に進んで行く。歩くたびにヒラリヒラリと先生のマントが揺れ、内側の星空が見え隠れする。

「先生、どこまで行くんですか?」
「もっと星が近い場所!」

どのくらい歩いただろう。小さな体なのに、宮沢先生は体力があるらしい。いつの間にか小高い丘のような場所にたどり着いた。

「わあ、空が近いね」

少し疲れたけれど、はしゃぐ先生を見ていると、疲れなんて忘れてしまう。

「ほら、今にも手が届きそう」

先生はそう言いながら本当に空に向かって手を伸ばす。さっきがピークだったのか、流れ星の数は減ったけれど、先生の言った通り空が近くに感じられるから、こっちに迫ってくるような気がする。
ずっと空を見上げていたから、首が痛くなった。軽く首を動かしながらあたりを見回すと、小さなガラスハウスが目に入った。

「どうしたの?」
「いえ、こんなところにガラスハウスがあるんだなと思って」

宮沢先生はガラスハウス?と繰り返して、私の視線の先を見た。気になったのか、そちらの方にずんずんと進んで行くから、私も慌てて追いかけた。
近くで見るとガラスハウスは随分放置されているものらしかった。ガラスが割れている箇所もあるし、中も手入れされているようには見えない。鉢植えがいくつも置いてあって、真ん中には白い机と椅子がある。

「温室だったんでしょうか」
「なんだか不思議な場所だね。入ってみようよ!」
「え!?ガラス割れてるし、危ないですよ」

一応止めては見たけれど、宮沢先生はワクワクした様子でドアに手を伸ばした。鍵が掛かっているかと思ったけど、ドアは音も立てずにすんなりと開いた。
懐中電灯に照らされて、何かが光ったような気がした。目を凝らすと、そこには石が落ちていた。拾い上げてよく見ると全体は深い青でところどころ金色が混じっている。

「空から降ってきたみたい。夜空を閉じ込めた石だね」

私の手の中の石をのぞきこみながら、宮沢先生は笑った。それからガラスハウスの中を見回す。

「ここ、忘れられちゃったのかな」
「そう……ですね。手入れされてないみたいですし」

植物も伸び放題だったり、枯れていたりで良い状況ではない。忘れ去られた場所。秘密の花園のようだとぼんやり考える。あれは長い間誰も入らないでいた庭を再生させていく話じゃなかっただろうか。

「植物は強いから、手入れをすれば元気になるよ。ここ、きっと綺麗な場所になると思うな」

いよいよ秘密の花園のようだ。なんとなくおかしくなって微笑みながら、私はそうですねと頷いた。

「ね、しばらくはこの場所、僕と司書さんの秘密にしよう。綺麗になったら、みんなを呼んでびっくりさせたいんだ」
「素敵ですね」
「じゃあ、約束だよ?」

拾った石を机の上にそっと置く。流星群の降る夜に見つけたガラスハウス、そこに落ちていた夜空を思わせる石。なんだか、この場所に引き寄せられたようだ。
これから何かが始まるようなワクワクした気持ちを感じながら、約束ですと私は頷いた。
ALICE+