林檎のケーキ
真っ赤なリンゴを見つめてみるが、見つめたところでどうなるものでもない。宮沢先生からもらったリンゴ。どこから持って来るのか、彼はよくリンゴをくれる。
料理を勉強中なのだと話したら、じゃあ司書さん、リンゴで何か作れる?と渡された。何だか期待するような眼差しだったし、喜ばれるようなものを作りたい。

「何やってんだ?」
「ああっ!志賀先生!」

とてもいいタイミングだ。これは先生に教えてもらうしかない。私が頑張ったところでリンゴを無駄にしてしまう未来しか見えない。

「リンゴを使った私でも作れそうな料理を教えてください!」

□ □ □


「リンゴのケーキ……ですか?難しそうですけど」
「スポンジケーキとかは膨らまないと失敗だからな。ホットケーキにリンゴが入ったやつだから、難しくはないと思うぜ」

ホットケーキくらいなら……と言いたいところだが、私はそれすらも綺麗に焼けたことがない。

「リンゴは薄く切って塩水の中」

手際よくリンゴを切る志賀先生の横で私も切ってみるが、薄いとは言えない不恰好なものになった。まあ、火が通らなくても食べられるから問題ない。
薄力粉とベーキングパウダーを混ぜて一緒にふるいにかける。その粉に砂糖と卵、サラダ油、牛乳を加えて混ぜる。さっくり混ぜると言われたが、さっくりがよくわからない。

「そんなもんだな」
「……なるほど」
「で、砂糖とバターを火にかける」

フライパンに砂糖とバターを入れて火にかけるといい匂いがしてくる。火を止めたら水気を切ったリンゴを敷き詰め、また火にかける。リンゴが少し焼けたかなというあたりでさっき混ぜた生地を流し入れ、蓋をした。

「おお、なんかよさそうな感じですね」
「簡単だろ?」
「うーん……思ったよりは」
「焦げないように弱火で焼く。表面が固まるまで待てば、ひっくり返すのも楽だからな」

ひっくり返す……それが一番難しい気がする。ぼろぼろになったらどうしよう。味が良くても、見た目だって重要だと思う。
しばらく待ってから蓋を開けてみると、表面ももう固まったようだった。渡されたフライ返しを恐る恐る差し込み、えいとばかりにひっくり返す。

「わあ!」

いい感じに焦げ目のついたリンゴ。これは成功だろう。見るからに美味しそうだ。また蓋をして数分、リンゴが乗っている方を上にして皿に移せば完成だ。

「あったかいうちに食べなきゃ!宮沢先生を呼んできます!」

□ □ □


私が何も考えずに宮沢先生を呼びに行き、一緒にいた新美先生も誘って食堂に戻って来た時には、志賀先生はケーキを切り分けてくれていた。

「わー!おいしそうだね!」

目を輝かせた2人はおいしい、司書さんすごいと言いながらケーキを食べてくれた。私も食べてみると、優しい、どこか懐かしいような味がした。
甘い匂いに誘われたのか食堂に人が集まって来て、私が作ったそれほど大きくないケーキではどう考えても足りなくなって、残っていたリンゴで志賀先生が同じ物を作ってくれた。
私が作るよりずっと素早く、おいしそうに出来上がったケーキ(特にリンゴの並べ方が綺麗だった)。経験の差なのか……もっと練習するしかないのかもしれない。
ただ、今日のところは宮沢先生と新美先生が笑顔でご馳走様と言ってくれたので、よかったかなと思った。やっぱり誰かが笑顔で自分の作った物を食べてくれるのは本当に嬉しい。

171005
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