すれ違いの出発点


___『雑草の正体を探れ』

___『雑草?確か、何度か情報を持っていかれているというエルバッチャのことで間違いないですか?』


___『奴には何度もセキュリティを突破されている。最重要の情報を盗まれていないのが救いだが、早いうちに潰しておきたい』

___『どこから手を出されているのかも分からないのにですか?多少であればそういった事の知識はありますけど、本職には勝てませんよ』

___『いくらでも方法はあるだろう。捕まえて連れてこい』



安室に届いたメールはこう言った内容だった。
エルバッチャ。
イタリア語で雑草の意味を持つ言葉だ。ジンが心底忌々しそうに呼んでいたから、相当厄介な相手なのだろう。
安室が組織に潜入し、コードネームをもらった頃には既に組織の中でかなりの厄介者として認識されており、その正体は未だ欠片ほどもつかむことが出来ていない。

噂ではアメリカに住む凄腕のハッカーらしいと聞くが、それが確かかはよく分からない。
高校生の頃、興味半分で涼にプログラミングや、そこから少し派生して法には触れない程度でちょっとしたハッキングを教わった事があった。
そのおかげで今まで多少のハッキングはそれほど苦労せずすることが出来たし、真面目に勉強すればもう少しマシな腕にはなるだろう。
けれど、組織をも出し抜いてみせるエルバッチャの実力に太刀打ちできるとは思わなかった。
ならばどうするか。
探り屋バーボンにはあるじゃないか、似合いの手が。

依頼人を装うのだ。
ジンは方法は問わないと言っていた。
エルバッチャは何らかの組織に所属するハッカーだと聞く。その組織は黒の組織に対抗しており、うまく出来るのならば公安側の協力者として引き込みたいところだった。
(どうすれば自然に依頼人としてコンタクトを取れるか…)
情報が欲しいと依頼をして、直接渡してほしいと頼むのが妥当だろうか。はたして、そんな提案に乗ってくるだろうか。

どうせ依頼するなら、価値のあるものを得たい。
エルバッチャへの依頼ができるというアドレスはエルバッチャ本人のものでは無いらしく、恐らくはエルバッチャの所属する組織の管理するアドレスなのだろう。
そこに打ち込む。
『河野洋二という男について詳しく調べていただきたいのですが、____』
組織の末端に属する男だ。最近何やら怪しげな動きをしており、そちらは別の幹部から探るように言われている。
これでエルバッチャと情報のどちらも手に入れられたのなら一石二鳥だが、さて、どうなるだろうか。
数日してから返信されたメールには、依頼を請け負ったという内容が簡潔に綴られていた。
その下に数行空けて書いてあったのは、新たなメールアドレス。
つまりはこれが、エルバッチャ本人と直接つなげることの出来るアドレスということなのだろう。

さて、ここからだ。
組織の不安要素であるエルバッチャ。
捕まえることが出来れば組織内での地位は確かなものになると考えて間違いはないはずだ。
どうにか上手くやってエルバッチャを生き延びさせ、こちらの手の内に加えられれば、というのほ、あくまでも小さな可能性。出来ればの話だ。
まったく真っ白な一般人を生贄にするのは憚られるが、エルバッチャはすでにこちらに足を突っ込んでいる存在だ。

『情報が揃ったら、直接受け渡しをしていただきたいのですが____よろしいでしょうか?』



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