少年探偵団のメンバーと公園でサッカーをした帰りのこと。元太が歩きながら投げては取ってを繰り返していたボールを取り損ね、コロコロと転がって誰かの足に当たった。
元太がすみません、と声をかけてボールを取りに行くと、その人はゆるりとした動作でそのボールを拾い上げ、元太の腕の中へと戻した。
「気をつけなよ」
小柄であったし、声からして女だったが、黒いキャスケットを目元が隠れるほど深く被り、その中に纏めたブロンドの髪をしまい込んでいるせいで性別が分かりづらかった。
コナンの隣を歩く灰原が、ほんの少しだけ警戒の色を滲ませる。それに気づいたコナンがそっと灰原を背後に押しやったところで、その女はついとこちらへ顔を向けた。
「あれ、君。…また会ったね」
「え?」
心当たりがない、と首を傾げて見せたコナンに、そうかと一人でつぶやいたその女は、被っていたキャスケットを豪快に外して見せた。さらりと夕日に輝くブロンドが女の肩にかかる。病的なまでに白い肌、彼とよく似た碧い両眼。
ぱかり、と口を開けて、コナンはその名前を叫んだ。
「涼お姉さん!」
「コナンくん、知り合い?」
「あ、ああ、この間事件後あった時に…ちょっとな」
突然の再会に動揺するコナンの頭の中には、このまま彼女に近づいていいのかという疑問が湧き上がっていた。なぜなら、本名を名乗る彼女は、彼女の兄のように黒の組織を追う捜査官などではないはずだからである。コナン達と近づけば必然的に安室との距離も近くなる。そこから万が一にも組織に彼女の存在が知られれば、彼女だけでなく安室にも危険が及ぶかもしれない。そして彼女は、こんな近くで兄が名を偽って生活していることを、知らないはずなのである。
「お姉さん、お名前は?わたしは吉田歩美っていうの!」
「ぼくは円谷光彦といいます!」
「おれは小嶋元太!よろしくな姉ちゃん!」
「…よろしく。私は降谷涼」
それまで無表情だった涼は微かに口角を緩めると、子供たちと自己紹介を交わした。そこでようやく、コナンは二度目の対面にして未だに名乗っていなかったことに気がついた。
「ごめんなさい涼お姉さん、ボクまだ自己紹介してなかったよね。ボクは江戸川コナン。こっちは灰原哀。よろしくね」
まだコナンの後にいる灰原を見かねて、ついでに紹介をしてやる。涼は灰原自身が名乗らなかったことに何も感じなかったらしく、こくりとひとつ頷いて、よろしくと返してきた。


「それにしても驚いた。君も米花町に住んでたんだね」
せっかく会ったんだから、と子供たちに引きずられるまま公園のベンチに座らされた涼が、コナンに話しかけてきた。
「うん。こないだは小五郎のおじちゃんにくっ付いて発表会に行っただけで、あそこが地元って訳じゃないんだ」
例の発表会は米花町からは少し離れた町で行われていたから、涼はコナンの地元はその町だと思っていたらしい。
コナンが返事をすると、へえ、と薄く反応をして、涼は何も話さなくなった。もしかして涼とはこれがデフォルトなのだろうか。だとすれば、お喋りの気がある兄とはえらい違いだとコナンは思わず半目になった。
「そういえば、涼お姉さんの髪と目ってとても綺麗な色をしてますけど、外国の血が入ってるんですか?」
光彦が質問を投げかけると、涼は首を横に振った。
「これでも純日本人だよ。どこから遺伝したのか分からないんだけど、私の兄も同じ」
「へー!いいなぁ、きれいでおとぎ話のお姫様みたいな髪の色、歩美も大人になったら染めてみたら…似合うかなあ?」
「金髪?歩美ちゃんがですか?」
“金髪”はお姫様の色なの?と不思議そうに子供たちに尋ねる涼は、その童顔も相まって随分と幼く見えた。彼女の兄とは何歳差があるのだろうか。

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