桐生はよっぽど体力を消耗したのか、その後しばらくはぐったりとしていた。
 今更何を恥ずかしがっているのか、此方を見ようとしない。必然的に背中の龍と目が合う。


 堂島の龍。

 その名を聞いたときから、会うことはわかっていた。

 自分より早く大きな存在になっていたこの龍。

 その龍を背負う男を、抱いてしまった。


 もう離すつもりも無い。

 龍司は桐生を後ろから掻き抱いた。
 さっきまであんなに饒舌だったのに、この龍はまただんまりだ。

 ずっと探していた。
 ずっと待っていた。
 二人はもともと一つだったのだ。

 龍司は最初に別れたときのように口の端で笑って、そっと桐生のうなじに口づけると、安心したように瞼を閉じた。









 すっかり思い出に耽ってしまった。

 躰の熱を逃したくて、桐生は寝床を抜け出した。

 潮風にあたって若干ベタつくが、ぐるぐると籠るよりは海の音を聞いていた方がマシだ。



 クリスマス前のミレニアムタワーを最後に、龍司の消息は不明になっていた。しかしそれは龍司が生きているということでもあった。
 或いは死体を見ても、桐生はそれを信じられないだけなのかもしれない。
 自信があるのかないのか。はたまた関係がないのか。

 ただ、龍司との思い出は、霞むことなく何度でも鮮明に蘇った。
 その熱に燻ぶられて、桐生はこの地で操を護っていた。




 不意に背後からザリ、と砂を踏む重い音がする。

 思わず先に笑ったのは、桐生だった。


 背中の龍の瞳で、誰かが判ったからだった。


「随分と遅かったな。」


 海を見つめたまま話しかける。


「探したで。」

(お前を置いて、くたばる訳ないやろが。)

 あの日と同じ声が聞こえた。

 桐生のクツクツという笑い声が、黄金色の海に溶けていった。






Fin.