とはいえこの部屋にもシャワーがついているわけではなく、ガシガシと簡易的なタオルで拭くと早急にここを出る必要があった。特に馬場の顔の赤みはいつまで経っても引かず、冴島を不安にさせる。

 二人が階段を昇ると、カウンターの中にママが立っていた。冴島は足早に近くに寄ると、ふたことみこと言葉を交わし、何かを手渡す。
 水分が足りないのか、ぼーっと少し離れたところでそれを見守る馬場に、先程テーブルで一緒だった男が現れ、近づいた。冴島は踵を返すと、今度こそ殴ってやろうと手を伸ばした、その瞬間。

「きたねえ手で俺に触んな」

 その男へぴしゃりと言い放った馬場の瞳には、侮蔑と嫌悪の色がはっきりと現れていた。
 伸ばした手を思わず口に当て、浮かべてしまった笑みを隠した。――馬場は冴島の恋人で、弟分で、男で、綺麗で、怖い、ヤクザなのだ。

「兄貴。行きましょう」

 自分に向けられた瞳は、柔らかく下げられた目尻に縁取られている。





 ―Reborn―