己の精液を胸で受けとめ息を荒げる馬場は、女の子ではなく雄の顔をしていた。少々の気だるさを抱えた男前が、苦しそうに喉を鳴らしている。自分が女性なら、卒倒モノなのだろう。
 冴島の自身は触れてもいないのに強く屹立していた。……ああ、先にもっと抱きしめれば良かった。そう、馬場の臍の湖を見ながら寂しく思う。

 だからこそ。
 冴島はローションを再び手に取ると、ツンと尖った胸に舌を這わせながら再び馬場の局部へ手を伸ばした。胸は単品で感じるのかわからないが、チロチロと舐めるとイったばかりの馬場の身体が跳ねる。

「あッ……! 兄貴、いやです、俺も……」

 されっ放しは気に食わないのだろう、馬場が起き上がろうとするのを、ぐ、と押し返して拒む。今日は、冴島が馬場の四肢を捥ぐ日なのだ。嫌というほど与えて、知らしめたい。

「ええから、今日は大人しくやられとき」

 チラ、と見ると臍の湖が決壊して根元の方へ若干流れていた。中指で臍の窪みからス、と下へ流してローションと合わせ、先程喜んでいたタマの後ろの方へ、手を伸ばす。馬場は少々不服そうにしていたが、一瞬で眉を切なく下げこちらを見つめて黙り込んだ。

 しばらくはコチュコチュと、先程と同じようにカリを引っ掛けながら苛めてやった。馬場ちゃんは快感を外に逃がすのが下手なようで、気持ちいいときに腹筋に力を入れながら頭を左右にジタバタと振ったり、先程の綺麗なテノールを潜めて肩で息をしたりしていた。
 冴島は徐にコンドームのうちの一枚をビッ、と千切ると、くるくると中指に填める。

「馬場ちゃん……慣らすけど、キツかったらいつでも言うんやで」

 そう言いながら、ゴムの上からまたローションをかけた。

「……ッはい、」

 緊張しないと言ったら嘘になるが、兄貴の気遣いを無駄にはしたくなくて、馬場は力を抜くことに意識を集中させる。
 何も考えんでええって言うたのにと笑いながら、片方の手は馬場ちゃんの前を触りつつ、右手でその窄まりを撫でた。数秒、前で快感を拾わせた後に少しずつ、中指に力を込める。

 馬場のナカは、思っているよりもずっと素直に冴島の中指を飲み込んだ。


「……」

 冴島の意味ありげな視線に、馬場が一層顔を赤くしながら弁明する。

「ちっ……違うんです、その、、経験があるとかじゃないです! ただ……その……兄貴を思って触って……たこともあったし、今日はそもそもヤケになってたので……大抵の人は慣らさず入れるだろうなと思って……あぁあっ!」

 御託を並べる馬場の言う誰かに嫉妬して、冴島が馬場の亀頭をねとつく手の平で数度擦った。入ったままの中指がキュンキュと締め付けられ、憎いやら愛しいやらで胸がいっぱいになる。

「 ええ子やな。いつも通り気持ちようなれるとええんやが」

 馬場が苦悶の表情で目を瞑った。貴方を思いながら日頃から弄っていました、と咄嗟に伝えた羞恥と、目の前にいる冴島があまりにも優しくて。男らしくて。……終始夢の中にいる心地だ。

 冴島はコンドームの中の指をニ本に増やすと、馬場の知る“良いところ”を探る。元々の嫌悪感を自ら克服してくれているのなら、少しは楽なのかもしれない。
 心地いいテノールの音色を頼りに、腹の方へ指を押し当てていく。ぷくりと膨らむ場所を見つけ、指先でコロコロと左右に撫ぜた。

「あッ……!! あ、ァ……ンンッ!」

 案の定最初から快感を拾う馬場の嬌声に、冴島の理性が少しずつ削られていく。悶え苦しむ馬場を2つの眼で凝視しながら、細かく同じ動きを繰り返し続けた。

「イヤッ……! あああ、だめッ、ダメです冴島さ、あああっ!!」

 頭がショートしてしまいそうなしつこい快感にただ叫ぶことしかできない馬場は、既にボロボロと涙を溢していた。ハッ、と気づき一度指を引き抜く。中でイった訳ではないようだが、とうとう想像を遥かに超えた馬場の痴態に苦しくなったのは冴島で。まだ余りのあるゴムに3本目の指を突っ込んで、早急に馬場のナカに埋めた。前立腺は時々掠る程度で。もう少し拡げなくては。

「も、もういいです、さえじまさん、もういいですから……」
「もうええかどうかは一番俺がわかっとる。……もうちょい解さな」
「……俺が我慢できないんですよ」

 顔を腕で覆いながら馬場がぼやいた言葉に、とうとう冴島の鉄壁が崩れ落ちた。


 指についていたゴムを引っ剥がすと素早く別の袋を千切り、自身に装着する。せめて負担を軽く、とローションをたっぷりとかけた。冴島のモノは結局、触らずとも勃ち上がったままだった。

「馬場ちゃん、ゆっくり息しいや」

 仰向けの馬場の脚をぐっと持ち上げて、アナに充てがう。先をつけただけなのにくぷ、と飲み込まれて、思い切りぶち込みたい衝動を必死にこらえた。一度息をついて、慎重に体重をかけていく。

「あッ、あっ……冴島さんっ……グ……」

 苦しいのだろう、想像を超える圧迫感と痛みに馬場が呻く。

「馬場ちゃんッ……、」

 息を詰めてしまった馬場の中は、冴島でも痛いほどに狭まっていた。やはり3本と己のものでは、少し段飛ばしをしすぎたのかもしれない。
 2/3ほど入ったが、痛みで脂汗を浮かべる馬場を気遣いゆっくりと抜こうとした、その時。

「あーッ!! ア、ああああ、あ!さえじまさ、ンンッ 」

 先程刺激していた場所に冴島のカリが当たったらしく、馬場が絶叫ともとれる嬌声を吐露した。試しに押し付けるように持ち上げ揺すると、馬場は理性など失ったかのように蕩けた表情でこちらを見つめて喘ぎ続ける。

「アァッ……ナカ、ナカ気持ちいい、さえじまさん……あああっ」
「、馬場ちゃんッ……」

 前立腺を刺激しながら、少しずつ少しずつ奥へと進み、戻り、を繰り返す。もう冴島も限界だった。

「すまん、馬場ちゃん、ちょっと無理するで」

 すっかりぶっ飛んではへ、と力なく応えた馬場の脚を再度抱えて、一気に奥まで貫いた。先程よりは平気そうな馬場の表情に、申し訳無さの中でも安堵を覚える。グリグリと最奥を確認すると、今度は思い切り入り口まで引き抜き、“イイところ”を外さず引っ掻いてやる。

 どれだけ自分で弄ったのか、熱く滑らかにぎゅ、と締め付けるナカに、性欲だけでなく冴島の征服欲が満たされていく。ザラつきかけた馬場の声が、耳から冴島を煽り続けた。

 眼前がチカチカと揺れて思い切り瞑っていた目を馬場がそっと開ける。声も出さずに腰を振る冴島は、無表情だと思っていた、のに。カチリと目があった冴島は、まるで自分が犯されているかのように切なく蕩けた顔をしていた。

「……!」

 兄貴がこんな表情をするなんて。何度瞬きしても網膜に張り付いて離れそうにない。何より冴島にこんな表情をさせているのは自分なのだと。心の底から雄叫びのような幸福感が迫り上がって馬場の頭を沸かした。
 自分がそんな感情を抱かせたとは知らず、冴島は馬場のモノを再び掴んでピストン合わせて動かしだす。

「ぁッ……! さ、えじまさ、それ、ン、あああっ……!」
「馬場ちゃん、、すまん、」

 あられもない声をあげ続けた馬場がとうとう耐えきれず、だら、と弱々しく馬場が二度目の絶頂を迎えると、ナカの締め付けに冴島が固く目を瞑った。一層強く腰を打ち付けられ、とうとう馬場の声が掠れて消える。冴島はそのままガクガクと腰を揺らすと、暫く息を詰めて性をその中へ放った。


 息も絶え絶えに涙を流す馬場が、ゆら、と冴島に手を伸ばす。先程の希望を思い出して、脚を抱えていた腕を離し、その肩を掴んだ。柔らかくはないその身体を、抱きしめる。

 求められている。自分はやはりこの人のために。

「死ぬんやない」
 俺のために、生きてくれ。

 こくこくと頷きながら、馬場は冴島の身体ごと己を初めて強く抱きしめた。