真島が一枚ジャケットを抜いただけで、部屋の温度が2,3℃上がった心地がした。……否、火照ったのは己の身体だけかもしれない。ソファーに沈んだまま呆気にとられて見つめていると、「何してんねん。脱がん派か」等と自身のファスナーを寛げながら笑われる。まだ手袋をつけたままの彼はあまりにも妖艶で、思わず手を伸ばす。が、その手はピシンッ!とすぐに叩き落された。

「触ったらあかん言うたやろ! 触ったらしばらく会わへんからな」

「なん、で……」


 何でそんなことを言うのか。
 何でそんなことを言いながら、自分は易易と桐生に手を伸ばすのか。桐生の頬に触れた真島の手は、革越しで体温をあまり感じられなかった。

 そのまま真島は桐生に近づくと、桐生のシャツのボタンをひとつひとつ開けていく。喧嘩で見慣れた至近距離なのに、伏せた目が綺麗で見惚れてしまう。
 触るな、と払われた手は所在なく宙を彷徨っていたが、ここなら、とバレない様に腰に触れた。

「あッ……桐生チャンの手、ぬくいな」

 てっきり怒られるかと思っていたのに、真島の口から漏れたのはあられもない声だった。一気に頭の中が湧き立つ。

「兄さん、キスは」

「あかん」

「……俺は、その、男とするのは初めてなんだが」

「おん」

「その……どちらが挿れる、とか」

 そこまで言うと、綺麗に伏せられていた真島の睫毛が、くんっと上がった。目が見開かれる。

「せやから挿れるんとかもなしやろがい」

 ……なんだと。


「しゃらくさいのう」

 ちょうど桐生のシャツのボタンを全て開け終えた真島は、そう言うと革の手袋を口で咥えて脱ぎ捨てた。ツ、と自身の身体を支えるように桐生の胸元に置かれた手から、今度こそ真島の体温を感じる。しかしもう片方の手が桐生の股間の上に置かれると、そうものんびりと考えられなくなってしまう。くるくるとちょうど亀頭のあたりを、ズボン越しに撫でられる。


「桐生ちゃん……なんて顔してんねん」

 暫く玩ばれ、相当情けない顔をしていたらしい。真島が呆れた表情でこちらを見つめた。ちょっと虐めすぎか?と呟くと、桐生のベルトを外しにかかる。桐生はただ穴が開くほど目の前の真島を見つめることしか、できない。

「こし、」

 ファスナーまで降ろし終えた真島がそう呟いた。腰を上げろという意味らしい。思わず突き出すようにガクッと腰を上げる。そんなに上がると思ってなかった真島が思わずそれを避けた。……締まらない。くすくすと笑いながら真島が桐生のズボンをパンツごと降ろした。羞恥と開放感でまた顔が熱く発火したのを感じる。怨めしそうに真島を見つめると、何故か、同じように顔を赤くした兄さんがいた。

「、」

 兄さんがなにか言った気がする。が、何を言ったか、

「もうええわ」

 兄さんはそういうと自分のズボンも一気に脱ぎ捨てた。なぜか、兄さんの方が、勃っている。

「にいさん、それ……」

「黙れ」

 いま機嫌悪いんやから。黙っとき。
 そう言うとこちらに近づいて俺の股間に顔を寄せ、ソファーに手をついた。期待やら恥ずかしいやらで、胸の辺りが爆発してしまいそうだ。兄さんはそのままスッ、とこちらを一瞬だけ見上げる。

「チッ」

 何に怒っているのか、大きく舌打ちをしたかと思うと、桐生のモノをべろり、と舐め上げた。

「うっ……」

 兄さんの薄い舌が、竿を下から舐め満遍なく唾液をつけていく。右手はタマをやわやわと弄び、時々はあ、と熱い吐息を洩らした。目に映る光景があまりにも卑猥で、きょろきょろと見回してしまうが、ここは真島組の事務所であった。兄さんが、裸で。
 そこまで考えた瞬間、桐生の先っぽが真島の口に丸呑みにされた。暖かくヌルヌルとした心地に軽くイきそうになる、が、真島はそのままくるくると口の中で亀頭を舐め回し始めた。

「アッ……ぐ、あ、にいさん、」

 強過ぎる刺激に兄さん、兄さん、と繰り返し呼んでも、全く手加減されることはなさそうだ。真島はそのままググッと奥まで呑み込むと、顔をグラインドさせ始めた。

「あああッ……」

 何故こんなに上手いのか、全くわからないが、とにかく気持ちいい。イかないように耐えるのがやっとで、一生懸命真島を見つめていた筈の視界はチカチカとホワイトアウトしていく。……ぶち込みたい。ぶち込みたい。

「にいさ、だめだ、イク、いく、うぅ」

 必死にそう伝えると、ちゅぽん!と音を立てて真島が顔を離した。寸前で留まった快感は、タマをもうひと撫でされようもんなら発射してしまいそうだった。



「桐生ちゃん。これ、見えるな?」

 片脚をソファーの上にドカッと上げた真島の股間は、ダラダラと先走りを流していた。ス、と先程までキリのモノを触っていた細い指が、真島のモノを掴んだ。すっかりソファーに沈み込んでいた桐生の目の高さで、真島が自分のモノを扱きだす。

「ン……ハァ、、きりゅうちゃん、」


 桐生は、もう、泣いてしまいそうだった。眼の前の光景が信じられないものばかりで、ただ欲しいだけなのに、それが叶わない。目を逸らすこともできず、ただ自分の名前を呼びながら気持ちよさそうに手淫をする真島を見つめた。

「ンッ……ふ、ふふ」

 急に笑った真島が、行為をやめて桐生に跨った。性器と性器をピタッとくっつけると、桐生の顔を覗き込む。……真島はすっかり上機嫌のようだった。そのまま二つの陰茎をまとめて両手で掴み、擦りだす。


「気持ちええ?」

 快感で身を捩らせながら聞く真島に、桐生はガクガクと頷くことしかできなかった。

「ああ、兄さん、兄さん……」

「ええで、そのまま、呼んでや」

 桐生ちゃん。囁かれるように笑われる。

「にいさん、にいさ、……もう、」

「ン。アァ……いく、イクイク、イク……!」

 そのままゴリゴリと強い快感を与える手で、叫び続けて絶頂に達した。ガクッと力尽き真島が桐生に抱きつく形で、二人はただ荒げた息を落ち着かせていく。
 やがて真島がゆっくりと大きく息を吐くと、桐生から身を離そうとした。が、桐生はその腰を掴む。


「兄さん……挿れたい」

 挿れるとか挿れられるとか、そんなことはよくわからなかった桐生も、この行為で確信を得ていた。挿れたい。


「こんの……触ったあかん言うたやろが!!」

 その瞬間、桐生は真島の強い蹴りによってはっ倒された。

「約束も守れんのか、どアホ!」

 もう知らんわ!! そう叫びながら真島は身支度を整え、ジャケットと手袋を抱えて事務所を飛び出た。

 後に残ったのは、左頬を押さえ茫然自失とした桐生だけだった。


 ――兄さんは、これっきりと思って気紛れでこんなことをしたのかもしれない。けれども。あんなに綺麗な人にこんなことをされて。そう簡単に諦める筈もない。

 桐生は一人、部屋の中で小さく笑った。