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「なんで……なんでそんなに、戦えって、言うの。どうして簡単に自分を倒せって言うの。……そのまま、死んでしまうかもしれないのに。戦ったって……何も……残らないのに……」

違うよ。違う。戦わなくちゃいけない時って、あるよ。わかってる。わかってるんだ。
でも、でも、わたし、なんだかもう、耐えられなくって。戦いたくないってしようとした対話もできなくて、いざとなれば戦えなくて。何も、何もできなかった自分の手の中に、本当に何も残らなかったことが、悔しくて。
同じように泣きたいだろうジーニアスが無言で唇を噛みしめていることも、ロイドの話を聞かないクラトスさんも、なんだか、全部が、耐えられなくなって。

わたしは何も考えずに立ち上がって、クラトスさんに駆け寄る。そのまま彼の胸倉に掴みかかってしまったけれど、クラトスさんは何も抵抗しない。
ただ黙ってわたしを見る彼に、わたしはこみあげてくる言葉を止める方法がわからなくなってしまった。

「なんで! なんで戦わないといけないの! みんなそうやってすぐにさ! 話を聞いてよ! なんのために言葉があるの! なんのために!」
「ナギサ……」
「四千年も生きたらみんなそうやって人の話も聞けなくなるの? 聞いてよ、戦いたくないんだよ。もっと話したかった、どちらかが死ななくてもいい方法を探したかった! 話す機会ならあったのに! 自分は選んだとか、自分の願いはこうだとかそればっかり! 答えになってないよ!」

もう誰に対して怒っているのか。何が言いたいのか。自分でもよくわからない。
話を聞いてくれなかったミトスくんにも、彼を倒してしまったみんなにも、口ばっかりで何もできなかった自分自身にも、何もかもにも怒っていたのかもしれない。
何も変えられなかった自分が許せなくて、ただ暴れたいだけなのかもしれない。言っていることがめちゃくちゃなのか、ちゃんと筋が通っているのかもわからない。勝手にわたしの口から飛び出していく言葉が何なのか、全然わからない。

わかってるよ、わかってる、仕方ないんだ。こうでもしないと次に進めないんだ。わかってる。だってこれまでもずっと戦ってきたもの。いきなり、彼だけは倒さないでほしかったなんてこと、言えるわけがない。それに今までちゃんと、戦ったことで得るものだってちゃんとあった。負けても勝っても、立ち上がってこれた。歩いてきて。歩くことを止めたりしなかった。今回も同じ。こんな風に喚いたって、何も意味はない。
わかってるよ。でも、わかりたくないよ。
戦っても、分かり合えなかったなんて、認めたくない。最後までお互いにお互いの言葉をちゃんと聞けなかったなんて認めたくない。

「クラトスさんだってロイドのこと大事に思ってるのに! どうして戦えってそればっかり! 息子だから何も言わなくてもいいとでも思ってる!? 違うでしょ、息子だからちゃんと話せって言ってるの! ロイドだって話をしたがってるじゃん! いつもそうやってすぐどっか行って! ……一緒にいてよ!」

ミトスくんも、クラトスさんも、どうして。一緒にいたいって言葉にうなずいてくれないんだろう。
大事だって、言外に伝えてくれるのに。どうして一緒にいることを選んでくれないんだろう。
一緒にいたいと、一緒にこれからのことを考えて、一緒に頑張っていきたいって伸ばした手は絶対に取ってくれなくて。戦えって、そればっかりで。じゃあ戦ったら一緒にいてくれるのかと思ったら違うし。同じ世界で、絶対に生きてくれないのは、どうして。

嗚咽しか出せなくなったわたしの手を、クラトスさんはそっと離す。
その手つきは優しかった。優しい手で、でも、優しくない声と言葉で、手放されて。
わたしはその場にうずくまった。

「戦わなければ、進めないことがある。……それだけだ」

身勝手に溢れる涙を止める方法が、今のわたしにはわからなかった。