127-2

朝、目を覚まして。疲れ切ったままの重たい体を自覚して、わたしはベッドに寝ころんだまま深く息を吐いた。
体は、たぶん、大丈夫。重たいけれどちゃんと動く。目蓋もなんだかすごい重たいけれど、眠いわけじゃない。起き上がろうと思えば起き上がれたし、宿の部屋に用意されていた洗顔用のお水に手を付ければ、ちゃんと冷たいなってわかる。
何かが鈍くなったわけでも、体が動かないわけでもない。だから、こんなに疲れているのは、単純に心の問題だった。

……ミトスくんを倒してから、一夜が明けた。

何をするにも救いの塔からは出て行かなくてはいけなくて、泣きじゃくってばかりのわたしの手を引いて歩くロイドの背中を見ながら、わたしたちはひとまず、落ち着いて宿をとれるところ、ということで、再びフラノールへと戻っていた。
とっても情けなくて申し訳ないんだけど、町に着いた頃にはわたしはなんだか、すっかり泣き疲れてしまって。黙り込んでしまったわたしを心配してくれたのだろう。今日は一度ゆっくり休んでから今後のことを考えようと言ってくれたみんなに甘えて、その日は宿で休んだ。
本当に。みんなは、とても優しい。基本的に二人部屋なのに、わたしだけ一人部屋に通してくれたし、頭を冷やしたいから放っておいてくれと言ったわたしを、本当に一晩見守ってくれた。心配そうに見送ってくれたみんなのこと、気まずくて目が合わせられなかったけれど、ちゃんと覚えている。

鏡を見れば、見事に目が赤い。あーあ、これは今日、また心配かけてしまうな。
ごめんなさい。泣きたいのって、わたしだけじゃないのに。ミトスくんを大切な友達だって言っていたジーニアスだって泣きたいはずだ。それでも彼はちゃんと戦った。
そう。わたしだけじゃない。
わたしだけが泣いていいことじゃない。

「……わたしたちは、お互いを選ばなかった。選んだことのために、頑張った」

だから、泣いている場合じゃない。
大丈夫。頑張れる。頑張るの、得意じゃないけど。頑張れる。
この道を選んだのだから、こうなってしまったのだから、立ち止まれない。立ち止まっていられない。彼を倒して歩くのだから、必ず世界をひとつに戻す。
彼は最後までわたしの手を取ることを選ばなかった。だからわたしも彼を選ぶことができなかった。そしてそれは、今まで自分たちが決めてきたことだ。
……最初に約束を破ったのはわたしだ。だから、もう、叶えられなくなったって、仕方のないことなのだ。

ぱんっと大きく自分の頬を叩く。ちょっと涙ぐんだ目は、痛みで上書きして。数度深呼吸してから、身支度をして部屋の扉に手をかける。
ちゃんとみんなにお礼を言って、もう大丈夫って言わないと。それで、はやく……ああ、クラトスさんと戦うロイドを見るのも、ちょっと嫌だな。でも二人はちゃんと覚悟を決められるだろうから、心配はいらなくて……またちょっと落ち込みそうになりながらも扉を開いたところで、わたしはその人影に気付いた。

「しいな」
「お、おはよう」

扉の隣。壁に寄りかかるようにしてそこにいるのはしいなだ。
彼女は出てきたわたしを見るとちょっとだけ焦った顔をして、けれどすぐにそれを引き締めて。こほん、なんてわざとらしく咳払いをした。

「……ちゃんと眠れたかい?」
「うん。大丈夫。ごめんね、心配かけて」

ちゃんと、いつも通りの顔で答えたつもりなんだけど。もしかしたら、失敗したのかもしれない。
しいなが困った顔をするのを見て、わたしはまた申し訳ない気持ちになる。でも、うん、困らせたなら仕方ない。謝ろう。わたしは彼女の隣にえいっとくっつくと、本当に大丈夫だよと笑った。

「そんな顔しないで。そりゃあ、まあ、強がってるのも事実だけど。でも……ちゃんと全部、必要なことだったってわかってる。昨日は……ちょっと、駄々こねたくなっただけだよ」

ちゃんと最後まで頑張れるから。
ちょっとだけ立ち止まっちゃってごめんね、と言えば、しいながぐしゃぐしゃと頭を撫でてくる。もう、せっかく朝髪の毛綺麗にセットしたのに。そんな風にくすくすと笑いながら手で髪を梳かせば、ならいいさ、と今度こそしいなも笑ってくれた。

「あたしたちも、後悔はしていないからね。けど、無理させてないかって、思っただけサ」

ジーニアスは昨日のうちにみんなでちゃんと甘やかしたからね、と言う言葉は、たぶん、わたしを安心させるためのものだろう。でも、彼のことも気にしてたから、ちゃんとみんなに支えてもらったならよかった。
わたしも引きこもっていいよと甘やかしてもらったようなものだけど……うん。やっぱりみんな、優しくて、素敵な人たちだなあ。

「……戦わないと、進めないこともある。その通りだよね」

クラトスさんが言っていた言葉は、正しい。
わたしはずっと、戦うことを避けて生きてきたからから、余計にその言葉が刺さる。
戦わないと進めない。戦ったらすっごく苦しい。戦ったからって、思ったような点火にはならない。
でも……戦わないと、ちゃんと、前を向けないんだよね。だから、立ち止まらないことが、正しいこと、なんだよね。

「でもまたどっかで泣かせて」
「もちろん。泣きたくなったら言いな」

自分にこれでいいのだと言い聞かせて、ちょっとだけ弱音も吐いて。
いかなくちゃ、と。手を繋いでくれたしいなのそれをしっかりと握り返した。