宿の外に出れば、もうみんなが揃っていた。
わたしのことを待っていてくれたのだろう。一斉に視線が集まってきてちょっとたじろいでしまったけれど、ちゃんと大丈夫だよ、ありがとう、とうなずけば、みんなもそれ以上は何も言わないでくれた。
ジーニアスも、少し目が赤かったけれど、いつも通りだ。むしろ、わたしを見てほっとしている。こんな年下の子にまで心配させてしまうなんて、本当に申し訳ないな。後で謝っておこう。
そうして、よし、そろったな、と。いつも通り、出立する前の朝の空気になる。それがとてもありがたかった。
「これからのことなのだけれど……ゼロス。あなたが持ってきた、この人間でもエターナルソードを使えるようにする道具は、どのようにして使うものなのかしら」
「ああ。それだけじゃもちろん使えないぜ。それを使って、ドワーフに一仕事してもらわないといけないんだ」
「それは親父でもできるのか?」
「たぶんな。やり方、一応聞いてきたし」
「それって、誰に? ゼロスは誰からこの話を聞いたのさ」
「それについては、まずはヘイムダールへ行こうぜ。そうしたら、エターナルソードを人間でも使えるようにする方法を教えてくれたやつのことも、ぜーんぶわかるさ」
俺が説明するよりよっぽどわかりやすいしな、と肩をすくめるゼロスくんの口ぶりからすれば、そこに彼にいろんな情報を渡した人がいるのだろう。
まあ、彼はいろんなところに顔を出していたみたいだし、誰が出てきても驚かない。やるべきことも、話をしてくれる人も同じ場所にいるのなら、それはそれで好都合だ。
「そうですね。……オリジンの封印は、ヘイムダールにあるんですよね」
「前にヘイムダールに言った時、村の人が言ってたもんね」
それじゃあこのままヘイムダールに行こうか、と口を開こうとしたところで、す、としいなが片手を上げた。
「……ちょっと、待ってくれるかい」
頼みがあるんだ、と。朝と同じ、少し緊張した様子のしいなに、みんなの視線が集まる。
彼女はぐっとあげていた片手を握りしめると、きゅっと唇を引き結んだ。
「ひとつ、やり残したことがあるんだ。後回しにしろ、って言われたらその通りだけど……今、やっておきたいことがある」
「やっておきたいこと?」
「くちなわのことさ。くちなわとの決闘を、しておきたい」
その言葉に、あ、とアルタミラでのことを思い出す。ジルコンの出荷先の資料をくちなわさんから返してもらうために、彼女が提示した条件。掟に従った決闘と、それから約束の品として渡したコリンちゃんの鈴。
あれから立て続けにいろんなことがあって、正直、わたしは忘れてしまっていたのだけれど、さすがにしいなは覚えていて、タイミングをうかがっていたのだろう。
でも、このタイミングだなんてちょっと意外、と思った人は多いらしい。特にゼロスくんは面白そうに片眉を上げると、からかうように笑った。
「へえ。なんだ、このまますっぽかすのかと思った」
「そんなわけないだろ。全部が終わったら行くつもりだったさ。……早く行動した方がいいこともわかってる。でも、オリジンとの契約の前に、あたしはちゃんと、決着をつけておきたい。精霊たちに、胸を張りたいんだ」
心残りはなくしておきたい、と力強く顔を上げるしいなを、ロイドはじっと見る。
それから、わかった、と同じように笑い返した。
「もちろん、いいぜ」
「ロイド」
「クラトスは強い。だから……俺もちょっと、びびってるんだ。だから、時間が欲しい」
ちょっと腕試しとかしてからとか、万全の体制で挑みたい、とこぶしを握る彼の言葉はきっと本心だろう。
クラトスさんの強さはわたしたちもよくわかっているから、それに異を唱える人はいない。むしろ、それなら自分もよりたいところがあるとか、気になっていることがあるとか、ぽつぽつと出てくるくらいだ。
「世界のことを考えれば、急いだほうがいいに決まっているわ。けれど……だからこそ、準備はしっかりとするべきだと思うの」
「そうだな。……この旅の終着点も見えてきた今、それぞれが考えることも多いだろう」
そう、話はどんどんと進んでいって……でも、ちょっと、わたしは困ってしまった。だって、もうこのまま最後まで駆け抜けようって思っていたから。立ち止まらないって意気込んできたところで、急にストップをかけられて、なんだかまた、宙ぶらりん。
みんながなにかを片付けている間、どう過ごしていればいいんだろう、なんて思うくらいだ。でも、早く行こうよとも言えない。心残りをなくす大切さも、前準備の重要さも、ちゃんとわかっているので。
どうしようかな、と思っていると、ぎゅっとしいながわたしの手を握った。
え、と。知らない間にうつむいてしまっていた顔をあげれば、彼女はまっすぐにわたしを見ていた。
「ナギサは、あたしと一緒に来てくれないかい。できれば、ロイドも。あんたたちに見届けてほしいんだ。……戦って、前に進むあたしを、見てほしい」
その、言葉に。あって、思った。
彼女のこの申し出は……たぶん。わたしのためでもあるんだって。
戦って、もう仕方ないからって立ち止まらずにいようとするわたしに。
戦って、ちゃんと自分で前に進む姿を、見せてくれようとしてくれているんだ。
それぞれ別行動をすることになって、明後日にユミルの森で合流しよう、と話が決まって分かれるまで。わたしは、しいなの手をぎゅっと握っていた。