デリス・カーラーンへと旅立ったクラトスさんを見送るその背中に近付けば、ロイドはまだ涙に濡れた目をぐいと拭って、こちらに振り向いてくれた。
潤んだままの瞳で、けれど穏やかな表情を向けてくれる彼にとって、別れが連続することになって申し訳ないけれど。わたしもこれから、彼とエターナルソードの力で元の世界に帰る。
最後の時間が、目の前にあった。
「……ナギサも行っちまうんだな」
「うん。ありがとう、ロイド」
ごめんね、とは言いたくなくて、お礼を言いながらそっと彼を抱きしめる。
今この場にいるのはわたしとロイドだけだ。みんなで見送ってくれる案もあったけれど、たぶん、泣いてしまって、離れがたくなってしまうから、断った。お別れの挨拶自体は、最後に世界を回った時にすませたし、今日の日付も伝えてはいるから、許してほしい。
ロイドの腕が背中に回って、ぎゅうと抱き合う。あんまりこういう触れ合いしなかったからわからないけれど、きっとすごく、大きくなったよね。君はいつも、強く、まっすぐに、前を見て、走ってきたものね。
「俺さ。ナギサに家族になってもらえて、嬉しかった。姉貴っていうか、お母さんっていうか、親父以外の家族がいるってこんな感じなんだなって思ったりしてさ。すっげー楽しかったよ」
「わたしも。毎日が新発見でおもしろくて、笑ってばっかりだった。ううん、ロイドといると、勝手に笑顔になった。憧れもして、守りたいとも思って、大切で……わたしの、大事な家族だったよ」
だいすき、と言葉が零れて、泣きたくなった。
ああ、帰りたくないなあ。涙が溢れそうだ。
泣いてしまいたくないから、みんなの申し出を断ったのに。帰るって決めたことを取り消したくないから、我慢したのに。やっぱり寂しい。
寂しいって思うくらい、みんなのことが大好きだった。大好きだよ、ずっと。
逃げてはいけないこと、戦わなくてはいけないこと、その難しさと強さを教えてくれたしいなが憧れだった。
可愛い弟分みたいに思っていたけれど、実際にはジーニアスにはいっぱい助けられたし、彼がいたから楽しそうなミトスを見ることができた。彼だってつらかっただろうに、ちゃんと前に進む姿はかっこよかったな。
リフィルさんには出会った時からずーっとお世話になりっぱなしだ。わたし、少しは恩返しできたかな。
ゼロスくんはいつもいろんなものを見ていたよね。わたしはとっても鈍くて全然気付いてあげられないことがたくさんあったけれど、ちゃんと君のことを大好きで、心から信頼している人がたくさんいるんだ。これらも笑っていてほしいな。
どんどんプレセアちゃんの笑顔が増えていくのが嬉しかった。手を繋いでくれる彼女の優しさが、いろんな気持ちと折り合いをつけようと歩き続ける彼女が好きだった。
リーガルさんが少しずつ自分のことを教えてくれるのが嬉しかった。変わるのは難しいけれど、変わっていかないといけないと、優しく隣に立って、一緒に前を見てくれるのがすごく心強かった。
しいなには本当にお世話になったなあ。いつもわたしの背中を押してくれた。たくさん勇気をもらって、たくさん笑って。とっても楽しかった。
コレット。守ってあげたいって思った素敵な女の子。その笑顔が、まっすぐで強い気持ちが、とっても大好きだった。この後もロイドのことよろしくね。
ロイド。いつもありがとう。あの日、ちゃんと喧嘩しろって、怒っていいって言ってくれてありがとう。
みんなと出会えて、みんなと旅ができて、よかった。
「ずっと一緒にいてくれてありがとう。背中を押してくれてありがとう。ずっと大好きだよ、ロイド」
「ああ。離れてもずっと。大好きだぜ、ナギサ姉さん」
そっと体を離して、最後に握手をする。
がっしりと握りあった手は熱くて、見つめあった目はきっとどちらも潤んでいる。
それでも涙は流さずに。決して、忘れないように。しっかりと見つめあって、やがてどちらともなく手を離した。
「さようなら」
さようなら、大好きな人たち。