リフィルさんと一緒にイセリアにある彼女の家までコレットを運び込んだ後。看病する際に少しだけ調べたけれど、うろこのようになってしまった肌は石のように固くなっていて、どこかひんやりとしていた。
一応、彼女が普段通りに生活していた通り、動かすことは可能みたいだけど。それでも、大きな異常が起きていることも、見た目以上に苦しみや痛みといった自覚症状も存在しているだろうこともわかる。
リフィルさんの治癒術をかけても、それに影響は何もない。ユニコーンの角の力で強化された彼女の治癒術でも、この謎の病には太刀打ちできないということだ。
そうして出た推測は、わたしが考えたのと同じように、これはクルシスの輝石が原因だろう、ということ。要の紋が上手に作用していなかったのか、拒絶反応なのか、詳しいことはさすがにわたしたちではわからなかったけれど……
「ごめんね」
目を覚ましたコレットは、懐かしい自室の天井だけで、だいたいのことがわかったのだろう。申し訳なさそうに瞳を潤ませた後、顔を隠すように毛布をかぶって、何度もごめんね、を繰り返す。
わたしとリフィルさんはそんな彼女の様子に顔を見合わせてから、ふ、と笑って、コレットの頭を撫でた。
「黙っていてごめんって意味なら、わたしたちも気付かなくてごめんねって返すよ」
「そんなこと、」
「あーりーまーす。……変だなって思ったのに、それ以上聞かなかったのは、わたしたちだもん」
これだけ進行しているのだ。だいぶ長いこと、彼女はこの症状を隠していたのだろう。
そして、それを知るための兆候は、あった。
コレットが、それとなく不調そうにしているところを、わたしたちは何度も見た。熱を出していたことも、痛みを訴えていたことも。彼女が「使い物にならない」と称されたことも。違和感も異変も、たくさんあったのだ。あったのに……わたしたちは目の前のことにいっぱいいっぱいになって、コレットの異変に、気付いてあげられなかった。
天使疾患の時も、あんなに後悔したのに。わたしたちはまた、彼女の苦しみに気付くことができなかったのだ。
「その通りだわ。あなたがロディルにさらわれる前、明らかに様子がおかしかった。きっとその理由をあなたは認識している。……そこまでわかっていて、その後確認せずにきたのは、私たちよ。あなたが耐える子で、自分から助けてと言えないと、わかっていたのに」
「……だから、謝るのはなし。いつまでもごめんね合戦になっちゃうよ」
「うん。……ごめんね、ありがとう」
「もう」
もう一度、コレットの頭を撫でてから、窓の外を見る。
その切り取られた景色の中にあるのは、美しい青空だけ、だ。
……救いの塔は、消えた。
この世界から、大樹と共に、姿を消してしまったのだ。
コレットは再生の儀式を完全には終えていなかったため、塔の出現を司るクルシスのコアシステムに狂いが生じたのだろう、とクラトスさんは言っていた。救いの塔が消えただけだ、とわたしなんかは思ってしまうけれど、でも、多くの一般市民にとって、それは絶望だ。何せあの塔は、世界が再生されるという、その名の通り救いの象徴だったのだから。
突然怪物が現れ、大地が切り裂かれ、救いの象徴も消えた。その事実だけで、人々はまた絶望に心を満たすだろう。
しかも、これまで再生を失敗させた今までの神子のように、命を落としていない。コレットは生きている。きっと、彼女を責める人が出てくるだろうと、ファイドラさんは悲しそうに目を伏せていた。
……生きていることは、いいことのはずなのに。
コレットに生きていてほしくて、わたしたち、ここまで来たのに。
改めて、世界中が彼女の死を望んでいたことを思い知る。
ううん、ほとんどの人は、コレットが死ぬなんて思っていない。きっと生きて塔にたどり着き、天使になるだけだと信じている。でも、知らなかったとはいえ、全員が。世界中が。彼女の死を望んでいたのだ。
そんな世界の中でも笑って、笑って、世界を救うと旅立って。自分のいろんなものを失って。一度は命を捧げて。そうして今度は、こんな奇妙な病に脅かされる。
どうして、コレットばかりがこんなに苦しまないといけないんだろう。……どうして、こんな世界の形に、なったのだろう。
ミトスくんと同じ名前を持つ、マーテルさんに執着する、あのユグドラシルという天使は、何を思っていたのだろう。
「……私、どうなっちゃうのかな」
ぽつり。顔を隠したままだったコレットが、小さく呟く。
その声が、震えていた。
こわいって、泣いていた。
「私……消えたくない。まだ生きていられるよね? まだロイドと……みんなと一緒に……一緒に、いられるよね?」
死にたくないよ、と小さく呟いたコレットに、わたしもリフィルさんも思わず泣きそうになって表情をゆがめた。
彼女の言葉に自信を持ってうなずけなかった悔しさもある。でもそれ以上に、コレットが自分で「生きたい」と言ってくれたことが嬉しくて、絶対に叶えたくて、どうにかしてやりたくなったからだ。
自分の命と引き換えに世界を救おうとした彼女が、生きて、この世界に存在しようとしてくれている。それが嬉しくて、嬉しくて。絶対に死なせたくないって、思った。
リフィルさんがベッドの縁に座って、コレットの肩を優しくさする。
そうして、先生らしく、いつものように、優しく語りかけた。
「……正直、まだなんとも言えないわ。この症状の理由がわからなければ、対策はうてない。でも、あなたは必ず助かる」
「……どうして?」
「そんなのコレットが一番わかってるでしょ。コレットのことを、ロイドは絶対に助けるからだよ」
「!」
はっと、コレットが顔を出す。
やっぱり泣いていたのだろう。赤くなった目は、けれど今は、一縷の希望を見出したように光を宿している。
……ロイドは、絶対にコレットを助ける。
助けないはずがない。彼は絶対に、コレットを諦めない。それは、わたしもリフィルさんも、他の仲間たちも心から信じていることだ。彼のその意思が常に道を切り開いてきたことを、わたしたちは知っている。
そして、彼女も。彼の切り開いた道で、心を取り戻した彼女は、一番よく知っているはずだ。
「そうね。あの子があなたをみすみす見殺しにするはずがないわ。必ず、あなたを助ける方法を見つける。そして私たちも絶対に協力する。だから、あなたは必ず助かるわ」
だからあなたも諦めないで、とほほ笑むリフィルさんに、コレットはまたぽろりと涙をこぼす。
けれど、今度は顔を隠したりしない。布団の中から手を伸ばして、わたしたち二人にぎゅうとしがみついて。そうして、今度は、心から笑ってくれた。
「ありがとう……みんな……」