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「次は北のテノス……だっけ」
「そ。んで、行くなら船で直接か?」
「いや、今の戦況から考えると、直接船ではなく、マムートに上陸して陸路だな。テノス周辺は海上封鎖されている可能性がある。余計なトラブルに巻き込まれたくはなかろう」

ジャングルから村まで戻ってきて宿で小休止したあと、なんだかんだで手に入れたあの船を停めてある港に移動しながら、次の目的地について話し合う。
テノスはいかにも北! といった雪国らしいが、同時に戦争の真っ最中でもあるため、入国規制をかけている可能性もあるのだとか。
だから一度マムートに上陸し、そこから北上すべきだとリカルドさんは言う。

「でも船が手に入ったから、出航の時刻を気にする必要がないのがいいね。マムートまではどうやって……」
「……そんなことを気にする必要はないようだがな」

ルカの言葉を遮って、リカルドさんは立ち止まった。
どうかしたのと立ち止まろうとして、わたしたちはバタバタと走ってくる足音に身構えた。
あっという間に走ってきた兵士たちがわたしたちを囲んで、それぞれに武器を構えて突き付ける。

「ギャー! 誰なんだ、しかし! 何をするんだ、しかし!」
「動くな! 全員連行する!」
「オレたちの居場所、バレちまってたのか! クソッ!」

動揺するわたしたちの中で、キュキュが兵士の隙をついて一人を沈める。
簡単に倒れた兵士に、だがコンウェイさんが制止する声が響いた。

「やめるんだ! キュキュ!」
「なんで止めるんだよ、コンウェイ! 突破するぜ、みんな!」

スパーダが続いて剣を抜き取ろうとしたとき、カチリという音がした。
それはすぐ耳元だったような気がして、ああでも、なんだかすごく嫌な予感がして。わたしは恐怖心を堪えながら、一生懸命音のした方に振り返る。

目の前に見えたのは黒い鉄の塊。何度か見せてもらった銃口。そしてそれを向けるのはもちろん持ち主である、リカルドさん。
わたしの目の前に突き付けられたのがリカルドさんの銃口だと理解して、わたしもみんなも動きを止めた。

「り、リカルドさん?」
「コンウェイの言うとおりだ。みんな動かない方がいい」
「なにぃ? リカルド、てめぇ……」

裏切るのか、という言葉が続くのだろう。
だけどスパーダはそれを声にしなくて、ただ悔しそうに剣を収めた。

「リカルドさん……あなたは契約を遵守される方だと信じていましたけど……」
「寝返ったのね! この詐欺師! 裏切り者!」
「ええ〜うそ〜ん……リカルドのおっちゃん、最低やぁ」

アンジュさんたちの言葉にリカルドさんは動揺を見せない。わたしに突き付けた銃口も決して揺れない。
それが悲しくて、でも竦んでしまった体は動かなくて、わたしは大人しく人質になったまま、ただ彼を見つめるしかできなかった。

「みんなすまんな。契約より重い物もあるってことだ。これも世の常。諦めろ」
「理由くらい、聞かせてよ」

ルカの問いかけに、リカルドさんが初めて瞳を揺らしたのを見た。
彼は一瞬、そっと目を伏せる。

「ガードルという男は俺の兄だった。前世の話だがな」
「ヒュプノス……タナトス?」
「死神……タナトス? あのラティオを追放された……込み入った事情がおありなのですね。なら、私はまだ、あなたを信じます」
「これはこれは転生者ども。中には久しい顔もいるな」

アンジュさんの言葉にリカルドさんが再びまばたきしたのを見た直後、聞き覚えのある女性の声がした。
視線だけを向ければ、悠々と歩いてくる仮面をつけた人が……マティウスの姿が見えた。
マティウスは明らかに表情を歪めたイリアを一瞥すると、持っていた杖を振るいながら演説するかのように声を張り上げる。

「マティウス。あんたが糸を引いてるのね! リカルドに何をしたの!?」
「糸を引くだと? お前たち、自分の立場がわかっていないようだな。適応法による逮捕拘禁中に逃亡したうえに、我が教団の愛する兄弟たちも傷つけ、転生者の風評を著しく低下させた。これは重罪だぞ。よってここで教団に与えられた権限により、宗教裁判を行わせてもらう」
「宗教裁判ですって!? そんな前時代的なもの、なんの拘束力もないでしょう?」
「娘。お前ならこの名を知っていよう。我ら教団には「枢密院」のお墨付きがあるのだぞ?」
「枢密院……教団の後ろに枢密院がいるという噂は本当だったのですね……」
「では判決だ。貴様等はグリゴリの里にて生涯幽閉させてもらう。命を奪わないのは、同じ転生者としてのせめてもの情けだ」

グリゴリって確か、戦場に行かされた時にも聞いた、転生者の能力を封印する奴らのことだ。つまり、無力化された状態で幽閉ってことで……脱出もなにもできず、本当に一生閉じ込められるんだ。
そんなの困る。旅の目的も果たせなければ、元の世界に帰ることもできなくなる。
でも、わたしがここで暴れて銃口から逃げ出すなんてことできるわけがない。回復役兼ほぼ足手まといの非戦闘員であるわたしを人質に選ぶなんて、さすがすぎる。

「同じ転生者……やっぱり君は魔王なの? 創世力を手に入れて、何をしようとしているの!?」
「フフフ……またいずれ教えてやろう。さあ、こいつらを船に乗せろ!」

銃口を下ろされても動けなくなっているわたしを、兵士が無理矢理に引っ張って船へと連行する。

もう、グリゴリの秘術が発動しているのだろうか。それとも、暴れない方がいいと全員が理解していたのだろうか。
イリアたちは声を荒げながらも、決して天術を発動させることはなく、船に押し込められていく。

「ちょっと! 触らないでよ! エッチーッ!」
「えーっと……ちょっとーさわらないでよーえっちー……とか言うとこ」
「うぉぉ!! コンニャロ! 放せ! 放しやがれってんだ!」

……この緊張感のなさには、ちょっと感謝だ。