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「我にお主を止めるすべなどないし、理由もない。地上に入り浸っておるのは我も同じじゃからの。好きにするがいいさ」

祭り囃子が聞こえる。
目の前では人間たちが楽しそうに頬を赤らめて踊り、騒ぎ、口々に感謝の言葉を並べながら歌っている。
地上人が天上界へ祈りを込めて行われる祭りたち。音も舞もすべてが感謝と祈りを込めているから、その祈りをすくい上げて天上界に持っていくのが我の役目だ。存在の理由も役割も、すべて地上人に依存した神であるとも言えるだろう。
きっと、だからだ。だからこそ、彼は我の前に現れた。

「……愚かと笑うか」

その言葉は、まるで自分を責め、罰することを望むような言葉だけれど。その声は、もうとっくに覚悟をした声だ。
まっすぐに祭りを見つめる視線が外されることもない。だからこそ、彼を止めるすべなど、我にはない。せいぜい、笑ってやるくらいしか、できることなどないのだ。

「もちろん。自ら天を棄てるのだから、笑わずにはおれまいて。何せ地上は、罪人となじられた者達が落とされる場所じゃ。そこへ自ら赴くことを、愚かと言わずになんと言う。お主は我と違い、彼らが居らずとも存在できる。むしろ愛着をわかせてはならない立場じゃったろうに」
「そうだな。地上人の魂を狩り続ける死神が、愛など持ってはならなかった」
「……それでも選ぶのか」
「祭事の神よ。貴公ならわかるだろう。地上は美しい。天上界にはない美しさを持っている」

光に溢れた天上界も美しい。花は咲き乱れ星が輝き、清浄な空気に包まれた天ほど美しい場所など存在しないだろう。
だがな、と死神は続ける。我はあまり彼を知らなかったが、きっと彼にしては熱のこもった声色で続ける。それはきっと懺悔だ。罪を犯さずとも、地に落ちずとも、自ら役割を放棄する罪の告白を、彼は今、我にしている。
我はそれを許すことなどできないけれど。祈りを、懺悔を聞くのは、仕事の内だ。だから、静かに目を閉じる。

地上は美しい。地上には何もない。罪人が押し込められたここには、天上界に存在したものはほとんどない。
それでも花は咲くし、星は輝くし、出会えば笑うし、失うことを悲しむ。
しかし、一度地に落ちたからだろうか。その背負った罪の重さを理解して、もうこれ以上はないとわかっているからだろうか。彼らはどれだけ悲しもうと、再び前を向いて微笑み続ける。花咲かぬ不毛の地を耕し、光差さぬ地に文明を築いて光を引き、輝く星に祈りを捧げる。
その姿のなんと美しいことか。その涙のなんと美しいことか。

ここには天上界に存在しないものがある。天上界では見られない美しさがある。
そう語る彼の横顔は、とても愛おしそうに微笑んでいた。

「それを、未来永劫、見守り続けてやりたくなったのだ」

これがきっと愛なのだと。そうつぶやく死神の姿は、なるほど確かに。
天にはもったいないほど、美しいものだと思った。