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それは、夢だ。

遠い世界の遠い国、穏やかで眩しい光の中にある綺麗な場所。
知らない世界。けれど、とってもよく知っている世界。

ららら、ら、らら……

さえずるような愛らしい歌に合わせて、わたしは踊る。
自分を生んだ人々の祈りが、この広い天に行き渡るように。彼らの願いが我らを生かすように。我らの祝福がかの地を潤すように。願いながら、いっぱいに腕を広げて、踵を鳴らして、優美に舞い踊る。

「相も変わらず美しい舞だ」

とん、と地面を鳴らしたところで、聞き慣れた声がかけられた。
その瞬間、近くでさえずっていた小鳥が驚いて逃げる音が聞こえて、はあ、とわざとらしくため息を吐く。
声をかけてきたのは、長い銀髪を揺らす男だ。その頭部には巨大な角を生やした彼は、見上げる程に大きくて、見上げるのが年々つらくなるのが、非常におもしろくない。
わたしは……我は。それでも目をそらしてたまるかと腕を組みながら彼を見上げると、ふんっと皮肉げに笑ってみせた。

「お前が不躾に話しかけるから、驚いて小鳥が逃げてしまったではないか」
「すまない。声をかけずにいられなかったのでな。さすがは天上界きっての舞い手であるウズメだ。さきほどの歌も見事であった」
「天上界を統一為さろうとする武神アスラさまに褒められては、あの小鳥も喜ぶだろうよ」
「貴女は相変わらず、トゲのある言い方をなさる」
「ふん。なんじゃ、お主は可愛くなくなりおって。もう泣きも戸惑いもせぬ。つまらなくてたまらんよ」

かつて、友がこの男を拾ってきたときは本当に小さい赤子で、自分が少し意地悪すればすぐに泣いていたというのに。親友を母と呼び武神として成長した彼は、いくら挑発しようとも穏やかに受け流すだけだ。
まったく、身も心もめきめきと大きくなりすぎである

「それは申し訳ない。だが、貴女の様子を見ておきたかったのだ。人間と共に歩み、天と地を繋ぐ祭事の神である貴女を見て、決意を新たにしたかった」

先日もひとつの戦が終わった、と天地の境を見る彼は、かつてこう言った。
人間を排他させるラティオの考えは間違いであり、人間も元は天上界から堕ちただけで自分達と同じ神であると。
だからセンサスもラティオも一つになり、分かたれた天上と地上を一つにしてみせると。そんな、途方もないことを、彼は言った。

「この天上界は、人間の祈りがなくては機能しない。ならば人間を消滅させるのではなく、人間も神も再び一つになるべきだ。それは始祖の巨人の願いであり、我らの悲願……貴女はそれを体現するお方だ」
「我は祭事の神。人が神に捧げた祈りと祭事によって生まれた神……人がいなくなっては、存在出来ぬ。お主らと違ってな」
「だが我らも、今は貴女や死神がいなければ保てないでいる。だから、貴女と話していると覚悟が固まるのですよ」

天と地。そこに違いなどはなく。同じように歌い、舞い、祭りを楽しみ、生きていける。
そんな世界を実現するためにも、と遠くを見る彼は、もうかつてのいじりがいのある子供ではない。

「……戦えぬ我をここに匿ってくれたことには感謝する。だからとっとと終わらせろ。いつまでもこれでは落ち着いて地上に遊びにも行けぬ」

どちらの陣営にもつけず、中立をうたったのに、どうしてどちらにもつかぬのだと責め立てられた時。ここなら安心だからと手を引いてくれた時のことを思い出して、ふ、と笑みを零す。
あの時から、なんだかんだと期待しているのだ。彼が本当に成し遂げられるのか、本当に人間と神の共存は叶うのか。その行く末をなんだかんだと見守ってやりたくなるほどには、意識している。

「我は天地がひとつになろうとなるまいとどうでもいいが……戦の後の宴や祭りには興味があるのでな」
「ああ。私はケロベロスとの約束通り必ず天上界を統一し、創世力を持って天地を一つにしてみせる」

力強く言い放つ彼を見上げて。我は、わたしは、笑って。
やがて溶けるように、夢から覚めた。