「ポアソン、あんた……あれって立派な脅しだよ。本当にばーさまがああ言ったの?」
「もちろんですよ」
「ポアソンちゃん……きっといい長になれるね」
終始あの笑顔のまま、見事オイゲン総統を言いくるめたポアソンちゃんに、ちょっとだけ尊敬の念を抱く。
しっかりと大人の駆け引きというか、自分達を守るための公の場での言葉の選び方を理解しているらしい。こんな子が長なら、アンマルチア族も安泰だろう。
「でも本当、いいとこに来てくれたよ。あたし達がここにいるってこと、どうしてわかったの?」
「大輝石に危険が迫っていると、フーリエ姉様が報告に来てくれたんです」
「お姉ちゃんが……でも結局、大輝石を守る事は出来なかったよ……」
せっかくお姉ちゃんが……呟いたパスカルは相変わらずフーリエさんにどこか遠慮しているようだったけど、それは前のように今すぐ駆け出してしまうほどではない。
今回のことは、純粋に自分の責任を成し遂げられなかったせいだと自責しているようだ。実験は止められたのに、と呟く彼女に、シェリアも肩を落とす。
「これからどうすればいいのかしら……」
「リチャードの次の目的地、わかんなくなっちゃったしね……」
リチャードを追いかけるための目印が、三つの大輝石だった。彼はそこを目指すだろうとわかっていたから、わたしたちはそこを目指してフェンデルまでやってきたのだけれど。
その最後の大輝石の原素は今さっき、リチャードが吸収した。これでこの世界にある三つの大輝石の原素は、全てリチャードに吸収されてしまったということになる。
四つ目が存在するはずもないので、もう次はここだと当たりがつけられない。手詰まりだ。
「その事で、ばば様からパスカル姉様に伝言があります」
「ばーさまから?」
「リチャード陛下は次に、星の核に向かうだろうとの事です」
「ラスタリア……?」
「世界の中心にあると言われている、全ての輝石の大本とも言われている存在の事です」
星の核、と言葉をオウム返しに呟くと、ポアソンちゃんはパスカルに大きめの鍵を一つ手渡した。
古そうなそれはずっしりと重そうだが、案外そうでもないらしく軽々とパスカルの手に乗る。
「パスカル姉様、これを。英知の蔵の入り口の鍵です。ばば様も星の核に関してはそれほど詳しくないそうですが、英知の蔵にはそれ以上の星の核に関する資料が眠っているかもしれないそうです」
「あたしが英知の蔵に入っちゃっていいの?」
「お前も今回の事で色々と成長したようだ。だから特別に掟を曲げて入る事を許す、だそうです」
「ばーさまがそんな事を……」
「英知の蔵へ行ってみよう、パスカル」
「ええ、今となってはかけられる可能性はなんであれかけるべきです」
次に繋がった、と喜んで、感動したように眉尻を下げたパスカルの肩を叩く。
これでまたリチャードを追える。
胸の中に渦巻いているこの不安をごまかせる。
そう無意識に笑みを零せば、一言。
静かにそれは紡がれた。
「……オレはここに残る」
その言葉を呟いた言ったマリクさんに、わたし達は一斉に彼を見た。
固く目を閉じた彼は、意志まで固く決めたように言葉を紡いで行く。
「ここに残ってカーツの遺志を継ぎ、再び改革の行動を起こそうと思う。フェンデルの人間として改革を成し遂げられなかった責任を負わなくては……」
「あなたがここで改革の行動をおこすことに、もはや意味はないと思います」
だがそれを、ヒューバートくんが遮った。
彼を一番警戒して、彼を一番注意深く見ていた彼が、反論は聞かないとでも言うような口調で、マリクさんをまっすぐに見る。
「ヒューバート……」
「カーツ氏の願いは、大輝石の研究を完成させ、人々の現状を救う事です。その為にまずやるべきなのは、リチャード国王を止め、大輝石を元通りにする事ではないですか? ……ぼく達と一緒に来るべきです。そして……フェンデル人の誇りと意地をぼく達に……見せてください」
「あたしもカーツさんの遺志を託されてるんだもん」
「教官、俺達には教官の教えがまだまだ必要なんです」
続いて言うパスカルとアスベルに、マリクさんは一瞬強く目を瞑って……そして笑った。いつものように。
「みんな……これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、改めてよろしくお願いしますよマリクさん」