112.未来の、長

リチャードが飛び去って、みんなが次のアクションを起こす中、わたしは立ち上がる事さえできずにいた。
リチャードの呟いた言葉が耳から離れない。
だがわたしの近くにいたシェリアにはそれが聞こえなかったらしく、わたしの背中を優しくさすってくれている。

「殺せ……?」

誰を?
リチャードは誰に誰を殺させる気なんだ?

「シオリ、大丈夫?」
「シェリア……」

違う。シェリアじゃない。
殺すのはシェリアじゃない。だって殺さないといけないのは、そうしないとわたしが殺されてしまうからで……誰が、わたしを殺すの?
ぐるぐると言葉が頭の中で回転を始める丁度その時、困惑した総統の声が響いた。それにハッと現実に戻ると、彼は怒りと焦りとがごちゃ混ぜになって赤くなった顔で何事か叫んでいた。

「なんという事だ……! 大輝石の原素が失われてしまった! しかもウィンドルの国王が我が国の大輝石を奪ったのか! おのれ……これは我が国に対する、重大な侵略行為だ! 貴様らもこのままではすまさん、警備兵!」
「お待ちください、オイゲン総統閣下」

まずい、と思った途端に、可愛らしい少女の声がそれを遮った。
見れば、入り口の方から歩いてくる小さな影が見える。
それはアンマルチア族の里で出会ったポアソンちゃんだった。

「ポアソン!? あんたがどうしてここに?」
「ばば様から長の代理に任ぜられ、やってきたんですよ」
「あなたが……長の代理……?」

突然やってきたまだ幼い子供に言われて、当然ながらオイゲン総統は拍子抜けしたような声を漏らす。
ポアソンちゃんの登場になんだか気分が楽になってきたわたしが立ち上がる頃には、彼女は子供らしいとても可愛い顔でにっこりと笑い、話を始めた。

「ばば様からの伝言を、総統閣下にお伝えさせていただきます。どうか、この方達の身柄をこちらで預からせていただけませんか? 今回の一件はフェンデルだけの問題ではなく、世界中で同じ事が起こっているようです。長はアンマルチア族の総力を挙げ、真相を解明する事を決定しました。その為には、この方達の持つ情報がどうしても必要なんです」
「し、しかしですな……これは我が国の問題で……」
「長はこうも申しております。閣下のお答えによっては、現在フェンデル政府に強力中の技術者を引き上げざるを得ない。我がアンマルチア族は、今後もフェンデル政府との良好な関係を望んでおります。との事です」

脅しにも聞こえるそれを笑顔のまま口にするポアソンちゃんに、総統だけでなくわたしも顔をひきつらせた。
これはまた随分としたたかである。可愛いからいいけどね。
総統は誤魔化すように咳払いをすると、子供相手には情けない、だがアンマルチア族を相手にするにはきっと自然であろう腰の低さでそれを了承した。

「わ、わかりました……この場は長老様に預けます……官邸へ戻るぞ!」