確か、ラントからバロニアへの連絡港は一本道だったはずだ。
出てくるときにシェリアにも確認したし、アスベルさん達と来た時の道もまっすぐだったはず。
あれだけ心配してくれたアスベルさんに「大丈夫」だと言ってきたのだ。これで辿り着けなかったら申し訳ないし、何より何もわからないこの世界で迷子になったら余裕で死ねる気がする。
そうして注意深く方角を確認して。ラントの門を出て、わたしがよし、真っ直ぐだ! と意気込んだ時だった。
「あぐっ……!?」
突然、酷い痛みが走った。
衝動のように襲い掛かってきたそれは、あまりに強すぎてどこが痛いのかもわからない。何が起きているのかわからない。痛い。痛い。その痛みの中で、たぶん頭が一番痛いのだと理解した時には、ぐらりと体が傾いている途中だった。
ほとんど崩れ落ちる様に地面に座り込めば、腰に差していた剣がガシャンと鳴るのか遠くに聞こえる。だがそんな事気にしてなんていられない。わたしだけじゃない。痛いのは、わたしだけじゃなくて、もっと、だからたくさん、痛くて。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
嫌だ。
嫌だ嫌だ駄目だそんなまだだってわたしは我はまだ生きて痛い痛い痛い痛い痛い……!
ふ、と、急に痛みが和らいだ。
それは痛みと同じように、突然のことだ。急に、なんの前触れもなく痛みが引いて、体が軽くなる。息がしやすくなって、自分が大きく息を乱していたことに気付いた。
強く握りしめていたらしい手はよほど力を込めていたのだろう。じんわりと血が滲んでいるし、背中を伝う冷や汗が気持ち悪い。風のせいで肌寒くも感じて、わたしは思わず体を震わせた。
もう痛みはない。
ゆっくりと立ち上がるが、立ち眩みもしなかった。
「び……っくりしたぁ……何今の頭痛。通り雨みたいにすぐ消えたけど……」
いったいなんだったのだろう。頭が急にあんなに痛くなるなんて、重大な病気が隠れているみたいで怖くなる。でもここで日本と同じような調べ方なんてできないだろうし、医療レベルの違いとかもわからないし、なにより帰りの船代しかお金もないので、できることなんて特にない。
ただ、何か言い知れない不安だけを残して消えた頭痛をとにかく忘れたくて、わたしは敢えて楽観的に聞こえる言葉を選んで独り言をつぶやく。
ただの独り言ではあるが、自己暗示という意味も込めて「大丈夫」と数度つぶやいて。それから、今度こそ港へ行かなくては、と真っ直ぐ道を進みだした。
途中の道は相変わらず緑が多い。
都会に慣れた自分としてはある意味珍しく感じるし、酷い頭痛の後でなるべくゆっくりと歩きたい身としては、なんだかちょうど良い暇つぶしにもなる。
「でもこの世界って長閑だよなー。日本とは随分違うや……でも科学はあるみたいだし、最強だな」
独り言が多いのは、いろんな不安を振り切るためである。ちょっと、よそから見たら変な子かもしれないけど許してほしい。もういろいろなことが立て続けに起きて、さすがにわたしも混乱しているのだ。
まだ、あの兵器に立ち向かった時の怖さを覚えている。フェンデルのあの兵器は“剣と魔法の世界”のイメージのこの世界では明らかに異質だった。
あんなものを身近で見た事などないけど、機械、という意味ではどこか懐かしく感じてしまう。フェンデルという国は、日本なんかに近いのだろうか?
ウィンドルのバロニアとラント、オーレンの森しか知らないけど……tと、いろいろと考えていて。そして、見えてきた町の景色に、それを中断させた。
「……港って、こんなに賑やかだったっけ……?」
港自体は、まあ、確かに。にぎわっていた、と思う。でも、ここまでガヤガヤと騒がしくはなかった気がする。次に見えるのは並び立つ家々。
おかしい。港は小さくて、家というより店といった感じのこじんまりとした家が並んでいたはずだ。
いやな予感がする。それも、かなりの。
わたしは引き攣った笑みを貼り付けたまま、そっと町の入り口にある看板に目を向けた。
町の名前はなんとか読める。ラントを出る前に、シェリアに確認した。ちょっと文字の記憶が怪しくて、と言えば彼女は子供用の文字表をくれたのだ。優しい。
そしてそれと見比べて、この町の名前を読む。
書いてある町の名前は、グレルサイド。
ああ、決定だ。先ほどとは違う意味で頭が痛くなるのを感じた。
「ま……間違えた……」
これ、バレたら絶対みんなに怒られる。