とりあえず、ここで打ちひしがれていても仕方がない。
わたしは泣きそうになるのを必死に堪えながら、とにかく近くを通った女性に話しかけることにする。一度もと来た道を戻ればいいんだろうけれど、ここからでもバロニアに行けるならそれが一番だ。
なんとなく声をかけた短いコック帽をかぶった女性は、どこか上品な仕草で振り向く。心癒される。
「あの、すみません。ここからバロニアへはどうやって行けばいいんでしょうか……」
「バロニア? ああ、グレルサイドの港を使うかラント経由かすればいいと思うけど……どちらも今は無理でしょうね」
「無理、とは?」
「王都で何かがあったらしいのですわ。それで今、グレルサイドからは行けないのです」
だからラントの方から経由しても難しい、という事か。
なるほどなるほど。つまるところ、迷子にならなくてもバロニアには行けなかっただろうってことね。なるほど。
「ま、まじっすか……」
どうしよう、困った状況でしかない。
元来た道を頑張って戻ったところで意味がないらしいし、グレルサイドにある港も当然使えない。
となると歩いて行くしかないのだが、それは可能なのだろうか? ああマリクさん、アスベルさんにではなくわたしに地図を渡して欲しかった……!
ぐるぐると半ば本気で泣きそうになりながら考えていれば、その不安が伝わったのかもしれない。
コック帽のお姉さんはくすりと笑って、わたしにそっと包みを渡した。
「一応、この先のウォールブリッジに行ってみるといいですわ。止められるでしょうけど、もしかしたら通れるかも。あと良かったらお弁当をどうぞ」
「あ、ありがとうございます。あなたのような方に出会えただけでも幸運です」
「あらあら」
「お姉様ー! 見つけましたのですー!」
「ジョー君! ……ごめんなさい。弟が来たからこれで」
「はい! ありがとうございました!」
お弁当であるらしい包みを受け取ると同時に、そのウォールブリッジとやらに続くという出口をと簡単な地図を描いてもらって頭を下げる。
なんてすばらしい人なのだろう。美しいだけでなく優しいだなんて、こんなお姉さまとお会いできただけでも本当に幸運だ。よかった。これだけで心がずいぶんと軽くなるのを感じて、また頭を下げる。
弟らしい、何か大きな機械のようなものを背負った少年にも軽く手を振って、わたしはよし、と気合いを入れた。
「いい人だったなぁ……お弁当までくれたし美人だし。よし、じゃあ行くか!」