3.知って、覚えて

とりあえず、わたしは「名前と意識もはっきりしているが、直前までの記憶が混濁しているうえに、一般常識についての記憶や知識も抜け落ちている状態」であると判断され、彼らに王国の騎士だという彼らに保護してもらうこととなった。
あの後の質問全てに答えられなかったわりに、名前や意識ははっきりしているあたり、もしかしたら何か事件に巻き込まれて、記憶の一部に支障をきたしているのかもしれない、という結論になったのである。
そしてわたしは今、この二人……マリクさんとアスベルさんについてオーレンの村に向かっている。
保護した一般人の女の子”、魔物がいる森の中に置いていくわけにはいかない、とのことだ。

「待て、アスベル」
「あ、はい!」

ちなみに二人は、騎士学校の教官と生徒という間柄らしい。今日は実地任務というやつで来ていたようだ。であれば、まあ、わたしの保護も研修の一環ということになっているのだろう。
保護してもらった身だし、役に立てているのであれば、まあ別にいいか。
マリクさんはアスベルさんを呼び止めて、スッとその場にしゃがむ。どうやら花を見ているらしいが、自然観察も実地任務の内なのだろうか。

「モリノ花か……こいつは免罪の水と合わせてホーリィボトルの原料になる花だ。少し待っていろ」

そう言って、近くにいたかめにん……という名前らしい、変わった、それこそ変わった格好をした人に話し掛ける。
あ、でも良く見たら可愛いかもしれない。
モリノ花がかめにんから受け取った水と融合されるのを見ながら、わたしはほぅ、と息をついた。

「へー、そんな事が出来るんだ」
「あぁ、アイテムとアイテムを掛け合わせて違うアイテムにする、デュアライズってやつなんだ。しかし、教官はさすがだな……」

七年経っても、と言いかけて、アスベルさんはそれきり黙り込む。
何かマズい事を言ったのだろうか。
このくらいの年の子は繊細で、何を気にするのかわからないので、話題にあげる言葉がわからなくて緊張してしまう。
何か言おうかと思ったが、それより早くマリクさんが口を開くのを見て、止めた。

「何を考えている?」
「いえ、教官は何にでもお詳しいなと。それに比べて俺は……」
「知識が重要なのではない。騎士になれば自分と、そして誰かを守るために必要な事だからだ。覚えておくといい」
「はい!」

なんていい教官と生徒の関係なんだろう。そんな事をぼんやり思って、わたしはにこにこと笑った。
と、マリクさんは出来上がったホーリィボトルとやらを持ってわたしに近付いてきた。

「シオリ、ホーリィボトルについての知識は覚えているか?」
「……いえ、覚えてないです。」

そうか、とだけ頷いて、わたしにそのホーリィボトルを差し出してくる。黙って受け取れば、それは自分にかけて使うのだと教えてくれた。

「これは一定時間、魔物との遭遇を避ける道具だ。君が持っていなさい」
「あ、ありがとうございます……」
「心配しなくても大丈夫だ。シオリの事は、俺達がちゃんと守る」
「な、なんか申し訳ありません……ありがとうございます」

人の優しさに触れたような気がして、なんだか照れくさくなった。