しばらくすると、森の奥に家のような物達が見えてきた。
……家のような物、なんて称したのは、もう人が住めないような状態だったからである。火事でもあったのか、壁どころか屋根も焼け落ちて、あちこちに黒くなったがれきだけが落ちている。その焼け落ちた様子に、自然と顔をしかめた。
「マリク教官! わざわざお越しいただき、恐縮です」
「それで、何かわかったのか?」
「住人全員が消えたという情報は確かなようです」
入り口にいた騎士らしき人達が、マリクさんを見て腕を胸に当てる。
たぶん、それがここでの敬礼なのだろう。剣やら魔法やら魔物やら、ここに来るまでにファンタジーなものをたくさん見てきたので、もしかしてここではわたしの常識って何も通用しないかも、と不安だったのだけれど。「敬礼」というわたしの世界にもあるものが存在しているのを見て、とりあえず共通点も多そうだな、とこっそりと安心した。
話の内容は、数日前忽然と姿を消したというオーレンの村の人達の事らしい。
「火事があったようですね」
「らしいな。この様子だと随分派手に燃えたようだ。火事と村人の集団失踪の間に何か関連は?」
「それを今調べています。皆さんにも捜索をお願いしてよろしいでしょうか?」
「聞いたな、アスベル。シオリも」
「はい!」
「あ、はい」
名前を呼ばれて、違うとこにやっていた意識を引き戻す。
わたしも手伝えと言うつもりじゃないだろうか。自慢じゃないが引きこもり気味な生活を送っていたわたしは体力が無いし、頭も良くないので足手まといにしかならないだろう。
実際、ここに来るまでで出会った魔物相手にだって戸惑っているだけだった。とても、何かの力になれるとは思えないのだけれど。
「マリク教官、こちらの学生が例の……? あと、そちらの少女は?」
「学生の方はアスベル・ラントだ。今日は実地任務という事で同行させた」
「よろしくお願いいたします!」
「こっちの少女は村の関係者では無さそうだが、記憶の混乱が見られるので保護した」
「シオリです」
敬礼の仕方なぞわかるか、と少し開き直って、軽くお辞儀をする。
わたしは一般人なんだ仕方がない。
騎士の人も分かってくれたらしく、お辞儀を仕返してくれた。
それを見届けてから、マリクさんが口を開く。
「シオリ。お前はアスベルに同行しろ」
「アスベルさんに、ですか?」
「非戦闘員がいる状況というのはいい訓練になるからな」
ああ、なるほど。
つまりはわたしの扱い方もアスベルさんの成績の判断材料にする、という事か。
確かに今後騎士になった場合、危ない場所で非力な一般人を保護し、行動を共にしないといけない場面が出てくるかもしれない。そうなった時にどうすれば守ることができるのか、一般人を伴いながら行動するには何に気を付ければいいのか、この実地研修で考えておくことができるなら、それはアスベルさんにとって大事な経験になるだろう。
納得して彼を見れば、緊張した様子で笑顔を向けられて、わたしも笑い返した。
「わかりました。よろしくお願いします、アスベルさん」
「ああ、よろしくシオリ」