55.わたしが、選ぶこと

「わざわざすまなかったな、迎えに来て貰って」

そう笑うマリクさんに、わたしは気にすることはないと首を振った。
リチャードたちと共にセルディク大公を斃して数日後。わたしは牢から解放されたマリクさんを迎えに来ていた。
というのも、リチャードの戴冠式が行われた後、マリクさん達セルディク大公傘下の騎士団の偉い人は、地位剥奪という処分を受けることとなったのである。教官職だったマリクさんもそれなりに偉い人だったらしく、騎士団をクビという形で釈放された。
わたしは身元引受人さながら、マリクさんの釈放を迎えに来た、というわけである。

「いえ、今ちょっと居心地悪かったので丁度良かったです」
「居心地が悪い? ウォールブリッジでは随分と打ち解けているようだったが?」
「あーいやまぁ、その後だったっつーかなんというか……」

あははと笑ってごまかしておく。
あれから数日たって、まあ、いろいろとバタバタしていたことも片付いてきたわけなのだけれど。その間わたしがどこでお世話になっているかと言えば、ソフィとシェリアとパスカルと一緒にアスベルに手配してもらった宿で過ごしているのだけれど。アスベルは未だにわたしを避けているというか、なんというか。あの微妙な空気のままで接してくるくせに、そのくせ変なところが過保護だったりして、非常に居心地が悪いのだ。
前はそんなでも無かったのにな、と考えて、わたしはどうもアスベルを刺激するのが得意らしいとため息をつきたくなる。
沈んで逃げてしまいたい気持ちを必死に抑えて、わたしは話題をズラした。

「あ、アスベル達はこっちですよ。マリクさんはこれからみんなに付いて行くつもりなんですよね?」
「ああ。アスベルに助けて貰ったからな。シオリ、お前はどうするんだ?」
「わたし、ですか」

マリクさんはリチャードに口添えしてくれたアスベルに借りを返したくて一緒に行くつもりらしいが……わたしはそんな借りがあるわけではないので、どうしようかな、と言葉を詰まらせた。
正直なところ、この後もずっと彼らと一緒にいる必要はない。人手不足だからと前回参戦したのがもうおかしい話であるし、先ほども言った通り今はちょっと居心地も悪いし。これからも一緒に行動してもいいのかなあ、というのが本心である。
……一応、ここまでの旅でお金もちょっとだけどできた。ある程度の常識も覚えたし、先日の報酬ということで仕事と住む場所くらいは用意してもらえるとは思うので、ここでバイバイ、解散……というのも選択肢としてはありだ。
でも、それはそれで、寂しい気持ちもあるというか。やっぱり見知らぬ世界で一人で生きていくのは困ることも多いので……できれば、仲良くなったみんなと一緒にいたい、というのも、間違いなく本音だ。
つまるところ、わたしはこれからの身の振り方についてものすごく悩んでいる。

「……絶賛迷い中です。別にどうしても一緒にいたいわけでも……ないですから」

みんなのことは好きだ。とても優しくて強くて素敵な人たち。尊敬しているし、可愛いし、みんな好き。
でも元々雨宮潮流という人物はこの世界におけるイレギュラーなのだ。どうしてここに来てしまったのかはわからないし、ちゃんと帰れるのかもわからないけれど、いつか別れるに決まっている。だからそれが今だとしても仕方ない。受け入れる。
……でも、出来るならせめて、アスベルとはきちんと話をしたいとも思う。
喧嘩別れみたいなのは嫌だ。それに、その、なんというか。ちゃんと彼と話をしないのは不誠実な気がするというか。このままでいたくない、というか。

「……何があったかは知らないが、一つだけ言っておこう」

マリクさんの声にハッと意識を戻す。随分深刻に考えてしまっていたらしい。
マリクさんはわたしをしっかりと見つめて、絶対に聞き漏らさないように、はっきりと言葉を口にした。

「人の意見や諦めを逃げ道にはするな」