丁度闘技島に来ているというフェンデル軍の小隊の中にいるらしい、ストラタ軍の密偵に手引きしてもらう形でフェンデルへ行く事になり、わたし達はまず船に乗ることになった。
こうして船に乗って移動するのもずいぶんと慣れた。ゆったりと海を眺めていれば、歩いてきたシェリアが隣に立つ。
「シオリ、体はもう平気?」
「……あ、そういえば平気みたい。さっきも暑いって感じなかったな」
言われて気付いた、と言えば、ならいいのよ、と返される。
いっぱい心配かけてしまったが、合流した時には全く暑さも気持ち悪さも感じていなかった。どうしたんだろう。それに少し違和感を覚えつつもまぁいいかと流せば、向こうからヒューバートさんが歩いて来るのが見える。
彼はわたし達の近くに立つと、くいと眼鏡を押し上げた。クセなのだろうか。
「シオリさん、と言いましたっけ」
「うん、そうだよ。雨宮潮流。よろしくね、ヒューバートさん」
「あなたは兄さんたちに会う前の一部の記憶が欠落していると聞きました。なんでも、常識的で基本的な事すら何も知らなかったとか」
「え、うん、知らないけど……」
自己紹介をスルーして話を続ける彼に、シェリアも首を傾げる。
なんだか尋問を受ける気分だ、なんて思えば、彼はキッと強い視線を向けてきた。
「率直に聞きます。あなたはこの中で一番素性の知れない人物です。本当に記憶がないんですか?」
「ヒューバート、あなたシオリを疑うの?」
「ぼくは確認しているだけですよ」
ああ、つまりはわたしが“本当は記憶を失っていない、嘘吐きで危険な存在”と思っているわけか。
一部の記憶が抜け落ちている、というのは事実だけれど、それでは常識的知識すら持っていないのは確かに不自然だ。実際、ソフィみたいな記憶喪失とも違うし、説明もしにくい。ここで実は別世界から来たので当然ですよーなんて言えば、ふざけているんですかと怒られるのがわかりきっている。
ということで、素直な説明はできない。だからと言って危害を加えるつもりがあるわけではないので、わたしはしっかりとそこだけは否定をした。
「……ま、確かに一番素性が知れない怪しい奴だよねぇ。でも、知らなかったのは本当だよ。あとはまあ、わたしが理解出来たら話すよ」
「シオリ……」
理解出来たら、ね。
忘れた事を、思い出せたら。