大統領の言葉に、ヒューバートさんはぽかんとした表情を浮かべた。
漫画とかだったら眼鏡がずり落ちそうな感じだ。
「ですが、ぼくは……」
「閣下! ヒューバートがいなければラントは立ち行けません!」
「ラントの後任に関しては君に一任しよう。それなら問題ないだろう。君の兄は私の選ぶ者では納得してくれなさそうだからな。君達には調査に専念してもらいたい。今はこの問題の解決が優先だ。アスベル君、これでどうだ? これなら文句あるまい」
ヒューバートさんを遮って言葉を発したアスベルに、大統領はすぐに切り返す。
頭の悪いわたしではイマイチ理解出来ないが、とりあえずラントの問題についてはすべてヒューバートさんたちの自由にしていいから、安心して一緒に行きなさい、という事らしい。
アスベルは嬉しそうに頬を染め、それから頭を下げた。
「閣下……あ、ありがとうございます!」
「私は国益を考えこのように判断しただけだ。というわけで、アスベル君、お仲間の方々、そしてヒューバート。頼んだぞ」
「ヒューバート、これからは一緒?」
すかさず、ソフィがどこか嬉しそうに首を傾げる。
そうか、ソフィは七年前のソフィと同一人物だからヒューバートさんと一緒なのは嬉しいのだろう。
ヒューバートさんもまんざらではないようだが、不機嫌ですとばかりに眼鏡を押し上げた。
「閣下のご命令ですから仕方ありません。一緒に行動するのに、いささか不安がありますが……」
「不安?」
「ソフィはこの人達といて苦労しませんでしたか?」
「苦労はしてないけど、ロックガガンに食べられたりした」
「食べられたって……」
それを苦労と呼ぶのだよソフィ。
そう言いたくてたまらないが、話の腰を折るのも躊躇われたので黙っておく。
「でも御守りの中のコショウでロックガガンがくしゃみして外に出られたの」
「あの御守りのおかげで助かった。ありがとう、ヒューバート」
「それは偶然でしょう。それにあれは元々あなたがくれた物です……いらなくなったから返しただけです。勘違いしないでください!」
ツンデレ! これがツンデレというやつか!
なんてちょっと気分が高揚するのを感じながらも、頑張って自分を抑える。
代わりに、アスベルが嬉しそうに弟を見つめた。
「それでも俺は嬉しかったんだがな……まるでお前が助けてくれたみたいで」
「そういう甘い考えは嫌いです。だからあなた方と行くのは不安なんですよ」
「ならば君がしっかり監督すればいい。そうだろう?」
「よろしく〜弟くん」
大統領の言葉やらパスカルの馴れ馴れしい態度やら。ヒューバートさんの頑なな態度を崩すには、それらはとても有効な手段だったのだろう。彼はやがては仕方ない! とばかりに息をついて、眼鏡を押し上げた。
「ああもうわかりました! よろしく頼みますよ……兄さん」
「ああ、よろしく」
笑顔を返すアスベルを見て、わずかに口角が上がるのがわかる。御守りを渡した時も思ったけれど、やっぱりなんだかんだ弟も嬉しいんだな、と勝手に解釈する事にした。
兄弟仲がいいのはいいことである。アスベルからよくヒューバートさんの話を聞いたらしいマリクさんも、幼なじみのシェリアもどこか嬉しそうにしているのを見て、わたしもふふっと笑みをこぼした。
「それで閣下、フェンデルへの侵入経路ですが……」
「闘技島まで船で行って乗り換えるのが一番だろうな」
「ヒューバート、闘技島って?」
「三国のどこにも属さない自由地域の小島の事です。それじゃ出発しましょう。街の北出口から港に行きます」