3.まだ、言えなくて

とりあえずラント邸で待機する事になったわたしはケリーさん達と適当に会話をしてから一人応接室で待つ事にした。
ケリーさんにはお茶会に誘われたけれど、その、申し訳ないけれど断った。お見合いショックの後に会話するのはいろいろと……うん。ちょっと、難しい、かなあ。
はあ、と自然と大きなため息がこぼれる。
言おう。言わなきゃ。
別に恋を叶えたいとかじゃなくて、約束をいつまでも放置するのはよくないから、ちゃんと言わないと。
別にどうってことないよ、ただちょっとデート……そうだそう言うから恥ずかしいんだよ、一日一緒に遊んでって言うだけなんだから頑張れよわたし。

よし、よし、大丈夫。わたしはなんだかんだとやればできる子。
うん、うん、大丈夫。わたし、結構、出来る子!
そう言い聞かせながら立ち上がると、窓から帰ってきたアスベル達が見える。よし、今がチャンス! そう自分の頬を叩いて、窓へと近づく。
大丈夫。一日一緒にいられれば、お見合いでもなんでも受け入れられるよ。うん。……いや、見合い相手ごと好きになればいいし? よし!

「……でもアスベル、こんな短時間で帰ってきて……領主としてしっかりしてきたんだろうなぁ」

……やっぱり言えない!
二十二にもなってグダグダしてるわたしに、そんな、そんな資格なんか……うぅ。

「アスベル」
「ん? どうした?」

一人で頭を抱えたりのけぞったりしていると、ソフィがアスベルに声をかけたのが聞こえた。
どこか思い詰めた声に、わたしは一度考えるのを止めてその様子を窓から眺める。

「アスベルも死んじゃうの?」

それは単純な問いかけ。
でも、何より返答に困る問いかけだった。

「な……」
「アスベルのお父さんと同じように、アスベルも死んじゃうの? わたし、アスベルの事、守る。そしたら、アスベル死なない?」

必死な風に言葉を連ねるソフィに、だが頷く事など出来ない。
だからアスベルもゆるく首を振った。
死なない、なんてことは、不可能なのだから。

「ソフィの気持ちはとても嬉しいよ。けどそれでもどうしようもない事もあるんだ。例えば、不慮の事故に逢ったり重い病気にかからないとも限らないし……もし運良くそうならなくても、寿命がある。けど、それは何十年も先の話だ」
「すぐだよ。十年も二十年も三十年も……あっという間に経っちゃう。ちょっと前までは、わたしよりアスベルの方が背が低かった。アスベルは、走るのが今より遅かった。だけどわたしずっとこのまま。何年経っても変わらない。わたしは、みんなと違うから?」

即座にアスベルの言葉を遮る彼女は相変わらず表情は泣きそうに見える。
最初に会ったときは、もう少し表情が乏しかったのに。あの旅の間に表情が豊かになった彼女が浮かべる笑顔はとても可愛らしいから……悲しそうな顔も、よくわかる。

「人じゃないから、みんなに置いていかれてしまうの?」

ソフィは、プロトス1。
フォドラで作られた、対ラムダ用戦闘ヒューマノイド。
決して人では、ない。決して……人のような命の終わりは、こない。

「ソフィ……」
「ごめんねアスベル。わたし先に帰る」

そう言ってアスベルの横を走り抜けて、ソフィはラント邸へと入って行った。
何も言えない事が悔しかったのか、アスベルが静かに息を吐く。
そしてふと、窓から見ていたわたしと目が合った。
少し気まずい。

「……聞いてたのか」
「ごめん……」
「いや……すまないが、ソフィと一緒にいてやってくれないか」
「うん、いいよ」
「頼んだ」
「うん、頼まれた」