「ソフィ」
トントン、と軽く扉をノックする。
ソフィに与えられた部屋の前で少しドキドキしながら名前を呼べば、小さく声が返ってきた。
「……シオリ?」
「うん。あのね、わたしとちょっとお話しない?」
断られたらどうしよう、と思いながらも言えば、キィと細く扉が開いた。
こっそりとこちらを伺うように見上げたソフィはわたしを見て少し安心したように息をつくと、中に入れてくれる。
特に何かソフィらしい物が置いてあるわけでもない部屋だが、十分広い部屋だ。
「どうしたの」
「いや、半年ぶりだし、色々お話したいなって。ね、ソフィ、かもん!」
バッと両腕を広げる。
これはちょっと大げさだろうか。
でも、上手く話出せないし久しぶりに抱き締めたいし……なんて考えていれば、しばらくじっとわたしを見ていたソフィはやがてぎゅっとわたしに抱きついてきた。
本当に来た……だと……驚くと同時に嬉しさと愛しさとが込み上げてきて、わたしはぎゅうっと彼女の小さな体を抱き締めた。
「……シオリ。シオリも死んじゃうの?」
「……さぁ。わたし、もう死んでるっちゃ死んでるからなぁ」
ポツリ、小さく問われた言葉に、わたしはどこか穏やかな気分で返す。
わたしは死んだ。交通事故で。
その時にラムダと約束をして、だから今こうしてエフィネアで生きる事を許されている。
「そっか……そうなんだよね……シオリは死んでしまったから、もうシオリの家族や友達には、会えない……」
会えない。死んでしまったから。もう、同じ世界にはいないから。
でも、ソフィが聞きたいのはそんなことじゃないだろう。ソフィの言葉はとても少ないけれど、それでも彼女の気持ちを端的に表している。わたしはこの世界でも死ぬのか。いつか、わたしたちは……ソフィの仲間たちは、ソフィを残して、死んでしまうのか。
その、寿命のある命にとっては当たり前のことを……ソフィにとっては違うことのせいで。ソフィは、一人になる。
そのことを確認している。どうしても避けられないのかと、悲しんでいる。
「こっちでもいつかは死んじゃうんじゃないかなぁ。ラムダはあくまでこっちでの体をくれた程度だからね。多分、死ぬよ。もしかしたらラムダの気まぐれで生きてるかもだけど……」
わたしにはよくわからん、とわざと茶化すように喋って、背中をポンポンと叩いてやる。
下手な慰めの言葉も出てこなければ、彼女の不安を取り除くことのできる提案もない。わたしにできるのは、こうして抱きしめて、話を聞くくらいだ。
しばらくそうしていれば、ソフィはやがて決意したかのようにわたしの服をぎゅっと握り締めた。
「……シオリ。一緒にパスカルのところに行こう」
「パスカルんとこ? いいけど、どうして?」
「パスカルにお願いがあるから」
詳しくは喋らないが、それはとても重要なお願いらしい。
強い眼差しを向けるソフィに、わたしはわかったと返事をした。
「……わかった。じゃあちょっとアスベルに伝えて……」
「いい。アスベルには言わないで」
「え、でも……」
「いいの。……いつかアスベルが死んでしまったら、きっと凄く悲しくなるから」
「ソフィ……」
ふと、残してきた家族や友達はどうしただろうかと思う。
わたしは割り切って生きてしまっているけれど、みんなは。
みんなはもう、わたしを忘れ去ってくれているのだろうか。
わたしを……少しでも覚えていてくれているのだろうか。
矛盾めいた考え。
それが今更、不安だった。