42.最愛の少女に、花束を

二人の幼い子供たちが花畑の中を元気に駆け回る。
耳をくすぐる笑い声と、そのたびに辺りをふわりと彩る花びらが視界に舞って、わたしは静かに微笑んだ。

「機嫌がいいね」
「ふふ。だって、可愛い娘と孫に囲まれてるんだもの」

わたしの傍らにいる少女が、可愛らしい笑顔で問いかける。彼女は座り込んだわたしの手を握って、嬉しそうに微笑んだ。

ふと、花畑の中を走り回っていた子供のうち片方が、ぽすんと花びらを散らして転んでしまったのが見える。泣いたりはしなかったけど、もう片方に差し伸べられた手も取れずに倒れたままだ。
わたしはもう、そちらに行くことは出来なかったから。その代わりにわたしの傍らに座っていた少女が子供に近付き、もう一度立たせてやる。
その光景はもう年老いた瞳ではぼやけてしまってよく見えない。それでも、彼らが笑っていることだけはわかった。

……もう、わたしが死んでしまってから何年も時が流れてしまった。
わたしはお母さんになって、おばあさんになったし、仲間だったみんなもそれぞれに幸せになって、何度も集まって、笑って、たまに喧嘩して、そうして一人、また一人とみんな眠ってしまった。
今はもう、わたしともう一人だけ。わたしの一番の人も、数ヶ月前に長い眠りについてしまったから。それでももちろん世界は回って、平和な時代が続いて、以前より生活は良くなって、ラントの街も子供たちが見事に引き継いでくれている。
そしてわたしも、もうすぐそんなたくさんの土産話を持って、みんなのもとへ行くのだろう。

近くにある花を摘み取って、自分がつけていたリボンできゅっと結ぶ。簡素な花束は、けれど彼女と同じ名前の花だ。
わたしは彼女を呼ぶと、その手を握って花束を差し出した。

「だいすきだよ、ソフィ」

わたしを見守ってくれてありがとう。
わたしを好きになってくれてありがとう。
わたしを守ってくれてありがとう。
先に死んでごめんね。
あなたを置いていくことを許してね。

きっとたくさんの意味を込めて、わたしは笑う。
しわくちゃのおばあちゃんの顔。でも、そんなおばあちゃんの顔をした自分が、好きだったりする。

目の前の最愛の少女は、娘は、ソフィは、一瞬泣きそうになりながらもにっこりと笑ってみせた。
わたしの大好きな笑顔だった。

「……うん。わたしも。ずっとずっと、大好きだよ」
『……おやすみ、シオリ。』

一緒に聞こえた、愛しい声に目を閉じる。
ぎゅっとソフィを抱き締めながら、わたしは目を閉じる。
遠くでみんながわたしを待っている気がした。





未来を紡ぐ、最愛の少女に愛を込めて。
どうか彼女と彼女の大切な人たちが、素敵な未来へ歩いていけますように。