「あー良かった、ちゃんと帰れて」
「どうやら、みんなバラバラの場所に落とされたみたいでしたからね」
「とりあえず、連絡だけはとれたから一安心だ」
シャトル墜落地点に落ちたのは羅針帯の中での出来事として処理されたらしく、もう一度羅針帯を経由することで無事にラントに帰ることができた。
だが、幸運なのかなんなのか。みんなはそれぞれバラバラのところに帰されたらしい。
最初はみんながいない、と慌てたけれど、なんとなく各自の家に近いらしいとそれぞれ連絡があったので、一度そのまま帰るということになった。また後日、十芒星戦士たちも集めて一連の出来事のまとめなどを行うとのことだ。
そしてわたしたちは今、ラントの外れにあるアストンさんのお墓の前にいる。
相変わらず街の人からの献花で彩られたアストンさんの墓は、今でも彼が街の人に愛されているのがわかった。
わたしより早くラントに戻っていたアスベルとヒューバートくんと、それぞれが花を添える。
二人はきっと、羅針帯の中で見たアストンさんを思い浮かべているのだろう。アスベルの腰にはアストンさんの剣も携えられていて、わたしはそっと微笑んだ。
それから、ヒューバートくんが大事そうに持つ本を見て、首を傾げる。
「その本は?」
「ああ……親父の日記だってさ」
「アストンさんの……」
「不器用で勝手な人です。自分のように家督を巡って兄弟で争ってほしくないから、ぼくを養子に出したそうですよ。まったく……せめて一言、くれればいいものを」
ケリーさんから渡されたというそれには、ヒューバートくんがオズウェルへ養子に出された理由も記されていたらしい。
その理由も、兄弟で争うより、もっと違う場所で成功してほしいという子供を想う気持ちだったと記されていた。
ヒューバートくんは、あの頃の寂しさや辛さを誰にぶつければいいかわからなくなったと眼鏡を持ち上げて……それから。口調とは裏腹に優しい目でアストンさんの墓石を見た。
「本当に勝手で、頑固で、怖くて……でも強くてかっこいい、自慢の父さんでしたよ」
そう言うと、ヒューバートくんはくるりと背中を向ける。
「もう帰るのか?」
「ええ。もう一人のどうしようもない父さんにも顔を見せなくてはなりませんから」
つかつかと歩いていく背中は、どこか晴れ晴れとしていて。わたしとアスベルは顔を見合わせると、ぷすりと笑った。
「ヒューバートのやつ、素直じゃないな」
「アストンさんに似たのかもね」
「はは、そうかもな」
くすくすと笑って視線を戻す。
羅針帯の中で見たアストンさんは、やはり二人のお父さんだった。
今はもう会えないけれど、あの時だけでも二人の子供を想っているのはわかった。
「ねえ、アスベル」
「どうした?」
「わたし、アスベルに会えて、本当に良かった」
ずっと、誰かに愛されることが怖くて、愛される自信もなくて、嫌いで、だから代わりに誰かみんなを愛してるって言ってた。
でもそれが心残りだろうって、ラムダに死んでしまったわたしをエフィネアに連れてきてもらって。シェリアやソフィ、パスカルにヒューバートくんにマリクさん、リチャード、アスベル、その他いろんな人に会って、大好きだって言ってもらえて。
その中で、たった一人選んでしまったアスベルに、同じ気持ちを返してもらえて。
幸せじゃないはずがない。
嫌いだった自分を好きになってもらえて、わたしも好きになってもいいかなって、ここで生きたいって思えるようになった。
それも全部、アスベルが隣にいてくれるからだって思う。
「ゾーオンケイジの中でも言ったけど、あなたに似た素敵な息子さんを、絶対に幸せにします。だからアスベルのこと、貰っていきますね」
もう一度、改めてアストンさんにそう伝える。宣言する。
わたしはここで、アスベルと生きていきたいから。
それを黙って聞いていたアスベルは、それにふわりと目を細めると、ぽんぽんと頭を撫でてきた。
視線をそちらにやれば、アスベルは穏やかに笑って、わたしを見つめている。
「違うだろ、シオリ」
「え?」
「一緒に幸せになって、未来まで繋げていくんだ」
親父の想いも自分たちの想いも、愛も希望も悲しみも寂しさも、それを乗り越えた先の美しい景色も。
未来の人たちの気持ちもすべて守れるように、ずっとずっと先まで、一緒に幸せになるんだ。
そう続いた言葉に、じわりと胸が熱くなって、わたしもアスベルを見つける。
どちらともなく指を絡めて、ぎゅっと手を握る。近くなった距離に少しだけ心臓が跳ねて、でもそれ以上に穏やかな気持ちでわたしたちは二人の距離を縮める。
「わたしと一緒に幸せになってね」
これから繋げていく、未来まで。