1.はじまり

将来の夢は、なんですか。
近い未来、どんな人間になりたいと思いますか。
あなたは今、何を為すために、どんな努力をしていますか。


天織なぎさ、今年で二十三歳になる一般女性。
なんとなく就職して、なんとなく生きて、特にやりたいこともなければ将来のことなんて真面目に考えられずにいる、その他大勢の一般市民。
そんなわたしなので、定期的に自分の前に現れる「未来について」言の葉に、心から辟易していた。

そもそも幼い頃から能天気に事なかれ主義に、ふわふわと風に飛ばされるたんぽぽの綿毛のごとく、流されるままに生きてきた、非常に平凡な人間なのだ。自分が世界を変えられるとも思っていないし、隅っこの方で密やかに暮らしていたい。どちらかというと怠惰な方なので、この質問は本当につらい。
それでも、社会人になれば、大人になれば、もっと世界が変わることを期待していたのだけれど。残念ながら、変わるべきは世界ではなく己自身だ。そして人はそんな簡単に変わらない。わたしは相変わらずぼーっと生きていて、なんとなく日々を過ごしている。

別に、それ自体はいい。仕方ない。わたしはそうやってなんでも受け入れて流される方が向いていると思うので。むしろ無理して頑張って倒れる方が怖い。でもちょっと、このままでいいのかな、と思う自分もいるのも事実だった。
もっと、できることとか、したいこととか、あったんじゃないかなって。だって、好きなものが何もなかったわけではないのだ。心が救われるような体験だって一度や二度じゃない。それを享受し続けるだけを選んだのはわたしだ。実際それはとても心地よかった。よかったのだ。でも、わたしがどこかで一歩踏み出していれば、世界は本当に変わっていたんじゃないかなって。最近になって、つい思ってしまう。
一歩踏み出していれば。怒ったり泣いたり、勇気を出したり。言いたいこと全部飲み込むだけじゃなくて、何か行動していれば。好きなものを好きって言えば。
わたしだって、もっと、誰かの何かに、なれたんじゃないかって。

「なぎさは、これからどうするの?」

目の前を歩いていた友達が言ったその問いかけは、別にこれからの未来だなんて大きなことについてではない。
今日は数人の友人と久しぶりに会って遊んで、とっても楽しい一日だった。でも時間はいつだって有限で、そろそろ帰って朝を迎えるか、それとももっと夜を駆け出していくかを決めないといけない頃だった。だから聞いた。それだけだ。
それだけなのに、もっと大きな、重大なことを聞かれているような気がしたのは、わたしのただの被害妄想。きっと疲れている。
さて、どうしよう。もう家に帰って休んだっていいけれど、みんなの近況とかを聞いていたせいか、そうして何かを断ってしまうことが、なんだかとってももったいないことのような気もしてくる。

どうしようかなあ、と笑って、町の時計を見るふりをして。ふと、高いところで何かが光った気がしてそちらに視線を向ける。
きっと、ただの光の反射だろう。いつもならそう思うだけで終わるのに、今日はそこで話を終えられなかった。
だって、何かが落ちてきているのだ。
それが何かは、暗くてわからない。上から落ちてくるものなんて危ない。避けなきゃいけない。
それなのに。わたしはどうしてか、こんな時ばっかり、一歩を踏み出してしまっていた。
突然友達の輪から離れて、落ちてくる何かに向かって、大きく手を伸ばす。それを受け止めようと身構えたところで、思ったより大きなそれがわたしの腕に飛び込んできて、全身に響くくらい大きな衝撃を感じて。

そのまま。わたしの意識は、ぱったりと途切れた。