翌朝、救いの塔へ向かう飛竜は二人乗りということで、わたしはノイシュと乗って向かった。
コレットには傭兵であるクラトスさん、ロイドとジーニアス、リフィルさんとしいな、とくればわたしは一人乗りになる予定だったのだけれど、ノイシュもずっと一緒に旅をしてきたのだから、彼にも見届けてほしい、という飼い主の願いによって、わたしがノイシュと一緒に乗ることになったのである。
もちろん、非常に飛びにくかった。そもそも飛竜の背中にノイシュを乗せようとするとか非常に無理がある。本人もびくびくしてしまってずっとか細く鳴きながらわたしにしがみついてので、前が見えないときさえあった。その結果、到着が一番最後になってしまったのは仕方のないことだろう。
一番に到着したらしいコレットとクラトスさんは、ロイドたちが到着した時点ですでに先に進んでしまっていたらしい。開かれていた扉に、何か嫌な予感を感じながらも、ノイシュを入り口に置いて走り出す。
通路を走って、走って。ふと、通路の下に螺旋を描くように並べられた長方形の箱に気付いて、首を傾げた。
「なに、あれ?」
「……死体だ!」
目をこらしたロイドの声に、サッと血の気がひいたのがわかる。
死体って、つまりあれは全部、棺桶ってことだ。螺旋を描くそれらはざっと数えても百近くあるように見えるこれが、全部。
これでは救いの塔ではなくて、まるで死者の塔だ。
「どうしてこんなに死体があるんだよ!」
「今まで世界再生に失敗した神子……かもしれないわ」
「コレットも失敗したらここに並ぶのか。くそっ!」
「心配だよ。急ごう!」
再び走り出して、ワープ装置に乗る。
クラトスさんがいるとはいえ、今までのように封印の守護者がいては大変だ。ここまで来て、彼女を死なせるわけにはいかない。これまでいろんなものを差し出して、それでも世界のためにと進んできた彼女を、あんな物言わぬ棺の中に入れるわけには、絶対に行かない。
だが、そうしてたどり着いた祭壇には何もいなかった。
ぐるりと祭壇を囲むように木の根のようなものがあるだけで、他には何も。封印の守護者なんてどこにもいない。
ただ、ここより高い場所にある祭壇にかしづいて、祈りを捧げるコレットの背中が見えるだけだ。
とりあえず無事らしい、とほっとした時、光が降りてくる。レミエルさまだ、と思った時にはもう彼は翼を広げていて。仰々しく、だが確かに喜びを含んだ声色でコレットに声をかけた。
「さあ、我が娘コレットよ。最後の封印を解き放て。そして人としての営みを捧げてきたそなたに、最後に残されたもの……すなわち、心と記憶を捧げよ! それを自ら望むことで、そなたは真の天使となる!」
……え。
ちょっと、待って。
何を、捧げるって、言ったの?
「……心と記憶を、捧げるだって!?」
「コレット、ボクらのこと忘れちゃうの?」
「ちょ、ちょっと、待ってよ。感覚も声も記憶も心もなくしたら、それじゃまるで」
「コレットは……ここで人としての死をむかえ、天使として再生する」
そっとリフィルさんが口を開いた。
悲痛な面持ちで、苦しそうに言葉を絞り出す彼女の言葉に、ロイドが悲鳴じみた声をあげる。
「どういうことだよ、先生!」
「ごめんなさい。コレットに口止めされていたの。世界を再生すれば、それと引き替えにコレットが死ぬ。死ぬことが、天使になるということなの」
「それは少し違う。神子の心は死に、体はマーテルさまに捧げられる。コレットは自らの体を差し出すことでマーテルさまを復活させるのだ。それこそが世界再生! マーテルさまの復活が世界再生そのもの!」
「そんな……そんなのって……」
女神マーテルが眠りについて、ディザイアンの封印が弱まり、マナが消える。
神子は封印を解き、天使となり、女神を目覚めさせ、マナを受け取る。
それが、世界再生。伝え教えられた。何度も繰り返された儀式。
それがシルヴァラントとテセアラの間にあるマナの供給のバランスを逆転させることだとは、しいなから聞いた。二つの世界に存在する儀式だって、聞いた。天使なる、という言葉が、天使が魂を導くものと考えれば、確かに、想像できたこと、かも、しれないけれど。
ユニコーンの角を自分に使わないと言ったことも。いろんなものを失うことになっても立ち止まらなかったことも。全部、全部……死ぬって、わかっていたからなの?
わたしたちは、コレットの命を引き換えにしないと、平和な世界を手に入れられないの?
本当に……他に、選べることは、ないの?
「レミエルさま。シルヴァラントには隣り合うテセアラという世界があるそうですね」
「そなたが知るべきことではない」
「ことさらに隠すのは本当だからなのね?」
「そのような話、誰から聞いたのだ」
「クルシスでも両方の世界を平和で豊かな世界にすることは出来ないのかい!?」
しいなの言葉にレミエルさまはそっと目を閉じて、それから重く口を開いた。
仕方ないというように。これなら満足だろう、とばかりに。少しの退屈さを声に乗せて、彼は答える。
「……神子がそれを望むなら、天使となって我らクルシスに力を貸すといい。神子の力でマーテルさまが目覚めれば、二つの世界は神子の望むように平和になろう」
はっとコレットが顔をあげた。
表情は見えないけど、レミエルさまに何か問いかけているようだった。
「本当か、だと? 何故自分がここに来たのか、神子はわかっておろう?」