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「……ごめん! いきなりこんな話されてもわけがわからないよね。変な話聞かせてごめんね」

パッと頭から手を離して笑う。
本当に、いきなりの話だ。わたしがこれまでどう生きてこようが、何を思っていようが、ミトス少年には関係ない話なのに。彼に話したところで、ミトスくんに伝わるわけもないのに。
長々と聞かせてしまってごめんと謝ろうとしたところで、ミトス少年にその手を取られた。

「……その人たちのこと、今でも好きなの? ……ハーフエルフなのに?」
「当然だよ。好き。ずっと好き。忘れたことなんてない」

反射的に答えてから、ぎゅうと胸元を握りしめた。
好きか嫌いかなんて、そんなの答えは決まっている。好きだ。
だってわたし、二人がいなかったら、きっともっとずっと前に死んじゃってる。何もわからない異世界で、きっと無様に野垂れ死にしてる。二人がいたから。二人が手を差し伸べてくれたから。優しくありたいって言った二人がとても素敵な人たちだったから、わたしは今、ここにいる。

「……何度も、何度も。思い出してるの。いっぱい約束したこと。教わったこと。優しくしてくれたこと。それにどれだけの気持ちを返せただろうって、何度も考えるの。二人に会えなくなったことがとても悲しかったから……もう後悔したくなくて、今一緒にいるみんなのことは、なんとしてでも守りたいって思う。代わりにしているわけじゃないけど……本当に忘れられないくらい、今もわたしの、大切な人だよ」

そこに、ハーフエルフかどうとか関係ない。
タバサちゃんが自動人形だって知ってから、プレセアちゃんやリーガルさんも考えていたけれど、その個人のことを考える時に、種族や生まれ方は些細なことだ。
人形だけど心はある。心があるのなら人形ではない。そして人形でも人間でもないからってタバサちゃんがタバサちゃんではない生き物になるわけじゃない。プレセアちゃんがプレセアちゃんでしかないように、タバサちゃんもタバサちゃんにしかならない。
わたしもそう。みんなもそう。ミトスくんたちもそう。わたしたちは、決して誰かになれない代わりに、絶対にわたしたちであることから変わらない。
他の同じ種族の人がどうとか、関係ない。
今もずっと、彼らが好きなのだと、そう続けて。
あれ、と少しだけ違和感を覚える。
でもそれが何かわかる前に、ミトス少年の手がわたしのそれを包み込んだ。

「じゃあ約束しよう、ナギサ」

そう、まっすぐに見つめられて、言葉を失った。
ミトスくんの、あの目を思い出してしまって、息を飲んだ。
……ああ。わたし、あの目が好きだった。強くて、優しくて、まっすぐなあの目が、好きだった。

「新しく、ボクと。もう約束を破りたくないんでしょう? ……代わりには、ならないけど。新しく約束しよう。だからそれは、絶対に破らないで」

ぎゅっと。そのまま手を握りしめて、ミトスくん……ううん。ミトス少年はわたしを見る。
昼間よりもずっと、ミトスくんだと錯覚してしまいそうなくらいに、まっすぐで真剣な瞳に、わたしを映す。
でも彼は違う。彼は、ミトスくんではない。ただのミトスとして、わたしに新しく約束をしようと言っている。

「つらいなら、一緒に泣いてあげる。困った時は、ボクが助けてあげる。人間はあまり……好きじゃないけど。キミはハーフエルフでも「ミトスくん」をそんなに想ってくれてるんだ。だから好きだよ。ね、ナギサ」

キミも強くないんだ。強がらなくていいよ。
そう言って、ほわりと、笑う。優しく。
わたしの記憶より少し大きな彼が、わたしの記憶そのままの笑顔を向ける。

「約束は、お守りにもなるんだ」

───キミがずっと、キミの「ミトスくん」たちのことを覚えているように
───これからする約束を守ってくれるなら、きっと昔の約束だって守ったことになるよ。だってそっくりなんでしょ? ボクとその人
───だから、泣かないで

そう、伝えてくる言葉に、ぽとりと、涙が落ちる。
ああ、情けないな。泣いてばかりで。こんな十も年下の子供に慰められて。困らせて。みっともないな。
でも……でも。それが偶然なのか、違うのかはわからなかったけれど、約束はお守りになるって、昔も聞いた言葉を口にする彼が、わたしを励まそうとしてくれていることだけは、ちゃんとわかったから。
だから、わたしも泣きそうなのを無理矢理に笑って、彼の手を握り返す。

「……ふふ。ありがとう……ミトス。じゃあ、約束。困ったら必ずわたしが君を助けてあげる。だから、わたしが泣きたくなったら一緒に泣いてね」
「うん。約束だよ、ナギサ。今度こそ絶対、破らないでね」

本当にミトスくんに言われたみたいでドキリとしたけれど、ミトス少年……ミトスは、違う子だから。これは、わたしの新しい約束だ。
……きっと、もう破らないよ。わたしのミトスくんとは違う、わたしの知らない、ミトス。
君との約束は、きっと守るよ。