ミトス少年の問いかけに、わたしはすぐに答えてあげられなかった。
想像通りであったはずなのに。なんでもないよって、すぐに言うつもりだったのに。全然、言葉が出てきてくれなかった。
ミトスくんそっくりの彼に、ミトスくんの話をするのが気まずかったのもある。でもなにより、勝手に重ねてしまった彼にそれを話して、彼はわたしのミトスくんではないと断定するのが、嫌だったんだ。嫌も何も、その通りなのに、変なの。
わたしはそっと視線をそらして彼の顔を見ないようにすると、ごまかさないでちゃんと言わなくちゃ、と無理矢理に笑った。
「ごめんね」
「あ、違うよ。責めたりしてるわけじゃ……」
「ううん、ごめん。わたしね、君にそっくりな大事な子がいて。君を見たらその子のこと思い出して、泣いちゃったの。びっくりさせてごめん」
「……大事な、子」
「うん。わたしがちゃんと、ここで生きようって思えた理由で、守りたかった、謝りたい、人」
大事な子。きっとその言葉が一番似合う。
恋愛とか関係なく、愛している子。大事な子。わたしを助けてくれた子。わたしも守りたいって思った子。
彼と、マーテルさんと。三人で過ごす時間が大好きだった。三人ならどこへでも行けると言った言葉の通り、本当に、どこまでも一緒に行きたかった。
「その人、ボクにそっくりなの?」
「そっくりなんてレベルじゃないよ! 名前も声も全部一緒だ。ミトス……さんは、本当にミトスくんなんじゃないかって思ってしまうくらい。もう生きてないはずなのに、実は生きてて目の前にもう一度現れてくれたミトスくんなんじゃって、そんな……ありえないことを思っちゃうくらい」
「……ごめんなさい」
「ううん、君は何も悪くないよ。ごめん」
うなだれてしまったミトス少年の頭をぽんと撫でる。
初対面の人間に「友達に似てる!」って泣かれたら驚くのは当然だ。ありえないのに泣いているのもわたしが悪い。それでも彼はとても優しい子のようだから、似てないことを気に病んでしまったのだろう。全然、絶対、気にすることじゃないのに。
わたしも驚いて泣いてしまった恥ずかしさと一緒に申し訳なくなってきて、そのまま無言で彼の頭を撫でる。
撫でながら……ああ、懐かしいなって、また思ってしまった。
あの子の頭をよく撫でてあげた。マーテルさんに膝枕をしてあげて、彼女の頭を撫でることもたくさんしたな。二人とも結構甘えん坊というか、ちょっと控えめにくっついてくることが多くて。そんなにくっつきたいなら堂々とおいで、と両手を広げたことがたくさんあった。
そんな二人は、あの後、どんな旅をしたんだろう。勇者の伝説に残るくらい、長い旅をしたのだろうけれど。その中で、どんな景色を見て、どんなことを経験して、どんなふうに世界を救ったんだろう。
その時、ずっと、力になるつもりだったのにな。そう、約束したのにな。一緒にいる約束も、力を貸す約束も。マーテルさんとした可愛らしい約束も、ミトスくんとした優しい約束も、全部、全部、叶えられなかったな。
きっと死体はなかっただろうけど……がれきに押しつぶされたのは覚えているし、血の跡とかはあったかもしれないし。死体が見つからないせいで余計に悲しませてしまったかもしれない。
ごめんね。ごめん。結局、迷惑をかけるだけ、だったな。
「……わたし、謝りたかったの」
ぽつりと、言葉が落ちる。
ぽつり、ぽつりと、気付けば目の前のミトス少年に、不思議でおかしな話なんだけど、と言って、異世界から来てしまったこととか、ミトスくんのこととか。どうしてか時代を超えてしまって、ロイドたちに助けられたこととか。これまでの旅の不安とか、勇者の伝説を聞くたびに思っていたこととか。いろんなことを、話してしまう。
こんなこと、聞かされたって、困るだろうに。訳がわからないだろうに。それでも聞いてくれる彼に甘えて、わたしは懺悔するように、彼に話す。
「ミトスくんとたくさん約束したのに、何も果たせないまま置いてきてしまったの。きっと、悲しませてしまった。ずっと後悔してる。謝りたい。でも出来ないからせめて、もう約束を破りたくなくて、ここまで、きて……それで……」
それで、ミトスくんに、笑ってほしかった。
マーテルさんに、笑ってほしかった。
もちろん、実際に笑顔を向けてもらうことなんて不可能だ。わかってる。でもいつか、旅の終着点で。わたしが本当に死んでしまう時とか、また何かがあって別の世界に行ったり、違う時代に飛んだり、元の世界に帰れたりした時に。どこかで、一瞬だけでも。事故のように会えたりして、笑ってくれないかなって、願っている。
ううん、わたしに笑ってくれなくたっていい。これはわたしの勝手なわがままだから。別に叶わなくていい。
せめて、せめて。彼らが願ったように、人間もエルフもハーフエルフも、みんなが同じように生きることの世界で。彼の優しさを知ったいろんな人に愛されて。いろんなものを愛して。大好きな家族と一緒に、心から笑ってほしかった。
そんな時代が一瞬でもあったのかはわからない。でも、彼が勇者と呼ばれた時に。少しでも、彼ら見つめて、好きだって言ってくれる人たちがいたなら。マーテルさんとミトスくんに、幸せに笑っていてほしい。
……出来れば、わたしと一緒に。笑っていて、ほしかった。