69-1

ミトスと約束した夜、懐かしい夢を見た。
あの頃の夢。ミトスくんとマーテルさんと、三人でヘイムダールにいた頃の夢。
あの場所だって、息苦しいことは多かったけれど。それでも帰る家があって、おかえりもただいまも言える相手がいて、みんなで笑って身を寄せ合って生きることは許されていて。それがたまらなく愛おしかった。
いつまでも忘れられない。わたしがこの世界に来てから初めてできた、大切な思い出。
そんな、夢を見た。



「ナギサ! 起きて! 姉さんがいないんだ!」

その日、慌ただしいその声を聞いて、わたしは無理やりに夢の世界から飛び出して、現実の世界で目を覚ました。
ばたばたと駆ける音と、わたしを揺さぶる振動。誰かがわたしを起こそうとしてるんだろうけど、それにしてはやけに。乱暴なそれは、ほかならぬジーニアスのものだった。彼は焦った様子で、動揺を隠せないまま、わたしを揺り起こす。

「んん……なんだって、ジーニアス?」
「だから! 姉さんがいなくなっちゃったんだ。調べたいことがあるからって、書き置きを残して、一人で……」
「ひ、一人で!?」

その言葉にがばりと起き上がる。眠気は吹っ飛んだ。
わたしを起こしたジーニアスは少し泣きそうで、朝起きたらリフィルさんがいなかったこと、書き置きだけが残っていたことを話す。
素早く身支度を整えてみんながいる部屋にくれば、ちょうどコレットがロイドを起こしてきたところだった。
みんな集まったはずの部屋にリフィルさんはいない。本当に一人でどこかへ行ってしまったらしい。
調べたいことがある、と書き置きにはあったようだが、どこだかまったくわからない。だってこちらの世界にも遺跡ならたくさんあるし、そもそも一人で行かなくたって十分なくらい、みんなであちこち回ってるわけだし……
リフィルさんの目的地がわからず困惑していると、朝食を用意していたらしいタバサちゃんがゆっくりと口を開いた。

「みなサん、私、明け方前にレアバードが南へ飛び立っていくのを見まシた。あれがリフィルサんだったのでないでスか……?」
「南というと、アルタミラの方角だが……」
「アルタミラって、リゾート地だっけ。なんでそんなところに?」
「そういや昨夜、ちょーっとおかしかったよな、リフィルさま。異界の扉がどうとかって話をしてから、考え込んじまって」

……確かに。でもあれは、新しく出てきた情報をまとめているのだと思って、気にしなかったんだけど。本当は気にしないといけないことだったんだろうか。

「姉さんが一人でアルタミラに行ったってこと? ボク心配だよ!」
「よし、すぐに追いかけよう」
「ボクも一緒に連れて行ってもらえませんか」

外に出ようとしたロイドに、そう言葉がかかる。
言葉を発したのはミトスだ。彼は昨夜見せたような真剣な表情でロイドたちを見ている。
だが、彼がエクスフィアを持たず、普段から戦いの中に身を置いているわけでもない一般人であることは昨日のうちにわかっているから、当然だけど真っ先にジーニアスがダメだよと声を上げた。

「なにいってるの! ダメだよ、危ないんだよ?」
「わかってます。でも、心配なんです。最近のテセアラは怪物がたくさん出るし、ボク、自分以外のハーフエルフに出会ったのって初めてだから……リフィルさんには無事でいてもらいたいんです」

ぎゅっと拳を握る。真剣な様子と、それから昨日の……もし彼が困ってるなら、の約束を思い出して、わたしもミトスの援護をしようかなと口を開く。
だがわたしが声にする前に、ロイドがミトスに笑いかけた。

「よし、ついてこい」
「ありがとう! ロイドさん!」
「ロイドでいいよ。ジーニアスの友達なら俺の友達だ」

それに、置いてかれるのは嫌だよな、と、呟いた彼が思い出しているのはイセリアでのことだろうか。コレットに、置いて行かれてしまった時のこと。
でもロイドはそんな呟きなんてなかったとばかりに笑って、何かあっても守ってやると強くうなずくから。絶対にそれが聞こえていたであろうコレットも口を閉ざしているから。わたしは表情を明るくしたミトスと共に、ジーニアスの肩を叩いた。

「うんっ! 頑張ろうね、ジーニアス」
「うん……ありがとう、ミトス」