18

「ごめんね」
小さく呟かれた言葉に、メイは黙って顔を上げる。自分で注いだのに一口も手を着けていないお茶の水面を見ながら、か細く口を開いたのはクリアだ。目を覚ました時に帰ってきた姉と兄を見て泣いた彼は、父がいないことに泣いた彼は、今度は自分の勝手を押し付けたと、膝の上で強く己の手を握る。
姉の傍にいないのもそのせいだ。いくら姉兄が許してくれても、自分のせいでこの騒動が始まったことは、いつまでも彼の中から消えはしない。だからアーリィをエルダのもとに行かせたのに。自分の隣から離れることなく、いつも通りに箒のアイヤールとのんきに会話を交わしながらクリアの隣にいるメイに、耐えられなくなって彼は口を開いた。
「ぼくの、せいなのに。それだけじゃなくて、みんなにあんなことして……」
「うーん、まあ、クリアにもいろいろとあったみたいだしねえ」
「その……それは、気にしてないってこと?」
「いやめちゃくちゃ怒ってるし根に持ってるんだよ」
「あ、そ、そうだよね、ごめん」
いつも通り、あっさりとした様子で返されて、クリアは慌ててうつむく。メイがあまりにもいつも通りの調子だから、逆に怖くなってしまったのだろう。さすがにそれはアイヤールに言われずともわかって、メイはうーん、と唸った。

確かに、怒ってはいる。あんなに仲良く過ごしていたのに、まるで裏切りみたいにファルを人質にとったことだとか、攻撃をしてきたことだとか。そうなんだーと簡単に流せるようなことではない。きっと怒ったって、裏切り者だと糾弾したって、誰も何も言わないだろう。むしろ、クリアからしてみればその方がよっぽど楽だった。
ただ、事情を聞いては怒るのも気が引けてしまうと言うか。家族のために、というのは、メイにもよくわかってしまったから、責める気になんてなれない、というのが本音だった。これがもっと別の理由なら、理解できないと突っぱねたかもしれないけれど。妹のために地元を飛び出して、はるばるこの地まで来たメイとしては、家族のためになんでもするという気持ちは非常に共感できるものだ。
メイはぶらぶらと足を揺らしてから、よいしょ、と立ち上がる。そうしてクリアの額に指をくっつけて、ぐぐ、と押し上げるように上を向かせた。
「でもそれはそれ。これはこれ。友達をやめるつもりもないし、嫌いになるつもりもないんだよ。わたしに申し訳ないって思うなら、これからもわたしの友達でいないと許さないんだよ」
しっかりと視線を合わせてそう言えば、クリアはぎゅ、と胸のあたりで手を握りこむ。その瞳は揺れていて、震えた唇は今にも嗚咽を零しそうで。それを隠すように再びうつむいたクリアに、メイも今度は無理やり上を向かせようとはしなかった。
「い……いいのかなあ」
「わたしがいいって言ってるんだから、いいんだよ」
泣きそうに震えた声に気付いていたけれど。メイはここは見て見ぬふりするのが大人なんだよ、なんて茶化すように言っただけで、それ以上は何も言わない。
次はさすがにひっ叩くからね、と笑えば、そうしてね、とクリアも笑った。


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