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「今度はなに!?」
「下から何か飛び出してきたぞ!」
飛び出してきた何かは、その体を使って何かに攻撃をしているようだった。
シオよりは一回りほど大きいそれ。びりりとわずかな音を立てて揺らめくたてがみ。それから額に生えた、長い、長い角。本で見たことがある。一本の角を生やした馬。一角獣。
レンガの敷いてあった地面を突き崩すほどに力強いその突撃を受け止めているのは、二人の人影。あたしはそのどちらにも見覚えがあった。
「……アーリィ! と、秋帆さん!」
「いいタイミングだ」
ふ、と満足そうに笑ったディストさんが、パチンと指を鳴らす。それだけで、先日聞いたのと同じ雷撃の音がして、まっすぐに光が空へと伸びていくのが見えた。その先にあるのは秋帆さんとアーリィだ。避けて、と祈るけれど、二人はもともと空中で一角獣の攻撃を受け止めている最中で。しかもアーリィを小脇に抱えるようにして応戦していた秋帆さんに、それを避けるのが難しいことなんて、一目瞭然だ。
彼女も気付いて何かしようとしていたみたいだけれど、それより先にその腕を閃光が貫く。思わずひっと悲鳴を零したけれど、秋帆さんはアーリィを落とすこともなく、ぐっと顔をしかめながらも大きく杖を振りかぶって一角獣から逃れた。
「ま、この程度で捕まるなら苦労はしねえよなぁ……」
「や、やめて! 怪我させないで!」
落ちてくる二人を追撃しようとするディストさんにしがみついて、なんとか止めようとする。もちろん、あたしがしがみついたくらいで彼が止まるなんてことはない。けれど少しだけ気をそらすことには成功したみたいで、その間に落ちてくる二人の下に風がぶわりと集まって、優しく二人が着地した。
これは、女の子の魔法だろうか。地面に転がっていた女の子は箒をぶんぶんと振り回していて、何かの言葉を紡いでいる。きっとこれからディストさんに攻撃するつもりなのだろう。あれ、これってあたし邪魔じゃないかな。せめて二人のところに行かなきゃ、と離れようとするけれど、それより先にディストさんに腕をつかまれた。
「はは、多勢に無勢だ。これはなりふり構っていられません。……ということで、無理やりですけど、失礼しますね」
へらりと笑って、目の前が手のひらでいっぱいになる。
あ、なるほど。このどさくさに紛れて、あたしの魂をもらってしまおう、って、そういうことか。確かに強行されたらあたしにはどうにもできないな、とやけに冷静に思う。だってどうすることもできないし。でもこれで死んだら化けて出てやる。
「あ?」
ばちんと、音がして。手のひらの隙間で何かが爆ぜた感覚。
ディストさんも不思議そうな顔をしていて、驚いているのがわかった。なら今のは彼の魔法ではないのだろう。そして視界も変わらないし、体にも変なところはない。ということは、魔法が失敗したのだろうか。
「何事だ!」
「皆さん、落ち着いてこちらへ避難を!」
「……騎士団か」
状況を理解するより先に、騒ぎを聞きつけた騎士団の人たちが走ってくるのが見える。そして同時にあたしたちの間に風が吹き抜けていって、あたしの体は簡単に地面に転がった。
「……さすがにこれは面倒だな」
集まってきた騎士と次の魔法の詠唱を始める女の子を見て、ディストさんはやれやれと肩をすくめる。さっと手を上げれば、秋帆さんたちを襲っていた一角獣が彼のもとへと駆け寄ってきて、迷うことなくその背に飛び乗った。
「ま、」
「待つんだよ!」
風の刃を器用に避けて逃げようとする彼を、助けてくれた女の子が箒に跨って追いかける。あれって飛ぶためのものなんだ。嵐のように飛び去って行く二人を見送って、あたしは呆然とするしかできない。
「ファル!」
「アーリィ」
椅子にもたれかかっていたあたしのところに、アーリィが駆け寄ってきてくれる。ぱっと見る限り、彼に怪我はなさそうだ。
安心して息を吐くと、彼はよいしょっとあたしを抱き上げて、再び秋帆さんの方へと駆け出す。貫かれていた腕とは反対の手を引いて走り出す彼は、とにかく焦っているようだった。
「ボクたちもここを離れよう」
「え、でも……」
「彼女の治療なら向こうでボクがする。っていうか、入っちゃいけないとこに入ったから、すごい怒られる!」
だからとにかくここから離れなくっちゃ! と叫ぶ彼に抵抗なんてできるわけもなく。あたしは彼に抱えられながら、他に怪我人がいないといいなあ、と祈った。