家族になった日
『白い髪白い肌。赤い瞳…気味が悪いがこいつぁ高く売れるぜ!』
『おら、こっちに来い!』
下卑いた男たちの手が幼い名前へと伸びた。
『いやっ!やめて!!お父さん、お母さん!!』
名前は両親へと振り返り、手を伸ばす。しかしそこには真っ赤に染まった、変わり果てた姿の両親が倒れていた。
『おと、さ…おか…』
さーっと血の気が引く。今まで感じたことの無い、それは絶望という感情だった。
『おら、さっさと来い!』
ぐいっと男たちに乱暴に手を引かれる。
『はは、おいおい、乱暴に扱うなよ。売り物なんだからよ』
男たちの笑い声が、響いた。
『いや、離して!!』
名前はなんとか男たちの手を振り払い走った。どこにも行くあてはない。それでも走った。次第に追ってくる男たちの声がしなくなっても走った。走って、走ってーー
『誰か!誰か助けて!!』
叫んだ。叫んだ。しかしその叫びに応える人間はいなかった。
*************
ガヤガヤと賑わう大通り。そこの川沿いに生える柳の木の下に名前はいた。白い布を頭からかぶり、自身を目立たないようにしていたが、通りを歩く人々はちらりちらりと、名前を盗み見ていた。
布の隙間から見える白い髪、白い肌。赤い瞳。いわゆるアルビノとして生まれた名前は、幼い頃から近隣の住民から気味悪がられながらも、物珍しく見られていた。その名前の噂を聞き付けた人攫いが名前を売り払おうとやってきたのであった。何とか逃げ切った名前だが、両親も殺され、行く当てもなく、途方に暮れていた。
「これからどうしよう…お父さんもお母さんも殺されてしまったし…」
通りの人間たちは物珍しそうに名前を見るだけで、助けるものはいない。頼る者もいない。それに、誰も信用することが出来ない。道行く人間が、ひょっとしたら人さらいかもしれない。途方に暮れていた。もうこのまま、死ぬしかないのか。絶望に飲まれようとしたその時。
「ねぇ」
「ひっ!!」
突然背後から名前に声をかける者がいた。
「な、何!誰!?」
慌てて振り返ったそこには、一人の少年が立っていた。
「いや、何をしているのかと思って。こんな所にいては不審に思われるからやめた方がいい」
「え、あ…う、うん…」
戸惑いながらも名前は少年を見た。黒髪の、黒い瞳の、黒い着物を来た少年。まるで名前と対象的な姿をした少年は名前をまっすぐと見ていた。
『誰…?知らない子だけど…』
ジリジリと少年から距離を取ろうとする名前。ひょっとしたこの少年も人さらいの一味かもしれない。警戒している、そんな名前にお構い無しに少年は顔を近づけ、
「聞いてる?」
「へ!?」
「君に言っているんだ。こんな所に子供が一人でいるのは危ない。最近は人さらいも多いと聞く。親御さんはいないのか?」
少年のその言葉に、名前は俯いた。両親が殺された光景が、頭によぎる。真っ赤に染まった、何も言うことがなくなった両親。
「お父さんとお母さんは…殺されて…」
ぎゅっと布を掴む。
「人攫いに連れていかれそうになったところを逃げてきたの…行くところがなくて…どうすればいいか、わからなくて…」
「っ!」
名前のその言葉を聞いた少年は、その黒い瞳から大粒の涙を流した。その様子に名前は戸惑う。
「えっ、あ、ど、どうして泣くの?」
「これが泣かないでいられるか!君は罪人に家族を奪われたんだな!それは辛かったろう!」
少年は名前の手をぎゅっと握り、
「君、名前は?」
「え?えと、名前…」
「名前。俺は殊現だ」
殊現と名乗った少年は涙を拭い、名前に微笑んだ。
「名前、俺と一緒に行こう。俺と一緒に罪人たちを殺そう」
「え…?」
「きっとご両親も喜んでくれる!」
少年の言葉に、名前はただただ驚いた。その言葉の意味が、まだ分からなかった。
「俺は今、山田浅ェ門という処刑人の一門に世話になっている」
山田浅ェ門。名前だけは聞いたことがあった。処刑を行う一族があると。
「そこにいて技を磨き、山田浅ェ門となり処刑人になればいつか君のご両親を殺した罪人を処刑出来るかもしれない!」
殊現の真っ直ぐな瞳が名前を捉える。
「ご両親の仇を取るんだ。君自身の手で」
その瞳に、名前は魅入られた。
「で、でも私刀なんて触ったことないし…」
「大丈夫だ。共に鍛錬しよう」
「私、こんな見た目だし、他の人に気味悪がられるかも…」
名前の言葉に殊現は微笑んだ。その白い頬に手を添えた。
「あっ…」
「大丈夫だ。君は白磁のように美しい。誰も君を迫害しない」
殊現は強く名前の手を握り、
「罪人を憎む意思がある限り、浅ェ門は君の味方だ」
殊現の真っ直ぐな瞳に、名前は魅入られた。その言葉は、名前にとって救いだった。
「本当に、私行ってもいいの…?」
「ああ。共に罪人を殺そう」
名前に手がさしのべられた。
「君も今日から、家族だ」
その手を、名前は取った。家族になった瞬間であった。
*************
「と、言うのが私と殊現の出会いよ」
浅ェ門の屋敷。皆に語るのは成長し大人になった名前であった。その姿は幸せそうに、笑っている。
「なるほど。彼らしいというかなんというか」
「確かに。殊現殿らしいまっすぐな行いです」
そう語るのは士遠と佐切。名前が浅ェ門門下になったきっかけを聞いていたのであった。
「殊現は今も昔も、私に道を示してくれるわ。彼には本当に感謝している…」
昔を思い出しているのか、名前は目を閉じて微笑んでいる。そんな名前の姿を見て、佐切は
「名前殿。今、幸せですか?」
その言葉に名前は微笑み、
「ええ、幸せよ。殊現に出会い、あなたたちに出会い、家族ができた。こんなに幸せなことはないわ」
その微笑みは皆を笑顔にする。名前の存在は既に浅ェ門にとってなくてはならない存在であった。
「これからも、皆よろしくね」
そう言って微笑むのであった。
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