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幼き想い/くまのかの小説 幼き想い


「結婚してください!」
 そう叫んで手を差し出した。目の前の男、桐生一馬は困ったように笑った。ニューセレナのカウンターでの、突然の告白。
「名前…お前も懲りねぇな。何度も断ってるだろう?」
「いいえ、私はあきらめません!」
 ずいっと桐生に詰めより、
「だって桐生さんのことが好きだから!」
 鼻息荒くそう言い放てば、桐生はさらに苦笑する。
「俺はお前の気持ちに応えるつもりはねぇ。お前もいい加減わかっているだろ?」
「わかってるけど…!」
 わかっている。桐生が今でもある一人の女性を想い続けていること。その女性に名前がかなうわけがないことも。子供のころから桐生のことを見ていた名前にはわかっていた。
けれど。
「わかってるけど、それでも好きなの…この感情に嘘はつけないもん…」
 ぽろぽろと名前の瞳からこぼれる大粒の涙。決して桐生を困らせたくはないのに、わがままを言っているような自分に情けなくなってくる。けれどどうしてもこの想いを伝えたくて、でも伝わらなくて、悲しくて悲しくて仕方がない。
「おい、名前、ちょっと落ち着け。桐生も困ってるぞ」
 様子を見ていた伊達も、思わず口をはさんだ。
「お前さん若いんだからよ。そんなに結論を焦んなくてもいいんじゃねぇか?」
「わかってる、わかってるけどぉ…」
 伊達や桐生に比べれば自分なんてまだまだ子供であることなんてわかってる。けれどあふれるこの想いを止めることなんて名前には出来なかった。
「ごめんなさい…!」
 必死に涙を止めようとしている名前の頭をぽん、と桐生が撫でた。
「桐生さん…?」
「名前、お前なら俺じゃなくてももっといい男が見つかるさ。だからそう泣くな」
「…桐生さんがいいもん…」
 ぐすっと鼻をすすると、桐生はさらにふっと笑い、
「いつかきっと俺よりもいい男が見つかる。その男に幸せにしてもらえ。きっとその方がお前の幸せにもつながる。だが何年たってもそんな男が現れなかったら…」
 名前の腕をつかみ、桐生はぐいっと自分の方へ引き寄せる。
「その時はまた考えてやる。それまで女を磨くのを忘れるなよ」
 名前は涙浮かべた瞳を見開いて、
「ほ、本当?」
「あぁ、だからいい女になるのを忘れるな」
「うん!」
 先ほどまでの泣き顔が嘘のように、名前の表情が晴れやかな笑顔になる。
「絶対だからね!」
 そう言って涙をぬぐい、名前はニューセレナを飛び出した。一刻も早く、桐生に見合ういい女にならなければと。


「お前も罪な男だな…そう言って女をその気にさせるんだろ?」
「言わないでくれ伊達さん…名前の泣き顔には昔から弱くてな…」
 名前の出て行ったニューセレナで、苦笑する二人の男の姿があったとか。

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