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雉も鳴かずば


きっかけは思い出せないくらい些細なことだった。

ハイゼンベルクと口論となり、そのまま喧嘩へ。喧嘩と言っても手が出る訳では無い。激しい口喧嘩だ。
「カールの馬鹿!!もう知らないんだから!」
「俺だってお前のことなんか知らねぇ。出てくなら勝手に出ていけ」
ハイゼンベルクの言葉に名前はむぅと頬を膨らませ
「モローのところに行くから!モローと浮気してやる!知らないんだからね!」
「おう、してこいしてこい、出来るならな。そんで二回りくらいいい女にって帰ってくるんだな」
「カールの馬鹿!髭!シビレエイ!!」
罵倒なのかなんなのか分からない言葉を残して名前は工場を飛び出した。そんな名前をハイゼンベルクはふん、と息をついて見送った。





「と、言うことなの」
ソファに座り、出された紅茶を飲んで名前は目の前の怪人ーーモローにそう言った。
「それはまぁなんというか…大変だったね…」
正面に座るモローもまた紅茶を啜っている。薄暗い洞窟の中、テーブルとソファ、テレビがあるだけの空間に二人はいた。モローが好んでいる場所だ。急に飛び込んできて浮気しよう!と叫んできた名前を宥め、とりあえずソファに座らせたのだ。モローとしてはとんだとばっちりである。
「そんな訳でモロー、浮気しましょう」
「いやいや、突然そんなこと言われてもね…」
とりあえず落ち着いて、と名前をなだめようとするが、先程からずっとこと調子なのである。
「喧嘩したんだろう?それなら一度帰って互いに謝るといいと思うんだけど」
「…カールが謝るとは思えないわ。それに…」
「それに?」
名前は俯いた。
「出ていけって言われちゃったもん…もう帰れないよ」
そう言う名前にモローははぁ、と溜息をつき
「結構馬鹿なんだなぁ」
「えっ、ば、馬鹿じゃないよ!」
「馬鹿だよ。ハイゼンベルクはその後帰ってこいって言われたんだろう?なら堂々と帰ればいいじゃないか」
その言葉に名前はキョトン、とした顔をする。
「そうだった…あ、で、でもカール、いい女になってって…」
「素直に謝れるようになったら今よりはハイゼンベルクの言ういい女ってやつなんじゃないのかい?彼の考えはよく分からないけど」
モローは紅茶を啜ってカップをテーブルに置く。名前は暫し考えた後、曇った表情が晴れやかになった。そして立ち上がり
「モローありがとう。私帰るね」
「あぁ。ハイゼンベルクによろしく」
「えぇ。またね」
モローの頬にキスを落として、名前は洞窟を飛び出した。
「やれやれ、彼らの面倒事に巻き込まれるのは何回目だ…」
モローのそんな言葉を残して。






工場の中。ドリルの音やプロペラの音が響く。ハイゼンベルクはシュツルムやゾルダードの整備を行っていた。設計図を前に更に改良出来ないかなどに思案を巡らせる。
「おい名前、ちょっとそこのレンチを…」
そこまで言って、そう言えば出ていけと自分から言ったことを思い出した。はぁ、と溜息をつき、レンチを自分で取ろうと振り返った時。
ポスッとなにかがハイゼンベルクの胸元に入り込んできた。ハイゼンベルクの胸元ほどの身長の小さな少女。
「…ただいま、カール」
若干バツが悪いのか、名前はハイゼンベルクの胸元に顔を埋めたまま顔をあげようとしない。
「帰ってこないかと思ったぜ」
大袈裟に肩を竦め、名前の肩に手を添えた。胸元から離した名前は上目遣いでハイゼンベルクを見つめ、
「ごめんなさい、カール…私悪い子だったわ…謝りたくて帰ってきたの」
そう言われ、ハイゼンベルクは
「別に怒ってねぇ」
「…私のこと嫌いになってない?」
「俺がそんな器の小せぇ男に見えるか?」
フルフル、と、名前が顔を横に振る。
「なら疑わなくて大丈夫だろ」
「うん。カール大好き!」
「分かった分かった」
そう言ってふと彼女の言葉を思い出す。
「そういやお前、モローと浮気してきたのか?まぁあいつにお前に手を出す度胸があるとは思えねぇが…」
「キスならしたよ?」
「ん?」
名前の言葉に耳を疑う。
「今なんて言った?」
俺の聞き間違いか?と、そうであれと思い名前に問いただす。しかし名前は笑顔で
「一緒に紅茶飲んで最後にキスしたわ!」
悪気もなくそう言い放った。ハイゼンベルクは眉をひそめ
「…モローめ、後で覚えてろよ…!」
怒りに表情を固くするハイゼンベルクに名前は慌てて
「モローは何もしてないよ!私がキスしたの!」
だからモローは悪くないよ!と付け加えたが時すでに遅し。ハイゼンベルクにガシッと顔を掴まれ、荒々しく口付けを落とされた。
「んぅ…!」
口付けは次第に深くなり、最初は暴れていた名前も体の力が抜け、ハイゼンベルクにしがみつく様にやっとのことで立っていた。唇が離された頃には、名前の頬は紅潮し、トロンとした表情になっていた。
「か、カール…」
「上書きってやつだ。他に何もされてねぇだろうな?」
「な、何もされてな…!?」
言い終わる前に名前はハイゼンベルクに抱えられ、ソファの上に乱暴に落とされる。
「痛っ…な、何?」
「何もされてねぇか検査が必要だな」
「待って、私何もされてないよ!!」
「黙ってろ」
バタバタと暴れる名前の両手を押さえつけ、
「まぁこれに懲りたら浮気なんかしようなんて思わねぇことだな」
そう言ってハイゼンベルクニヤリと笑うのであった。

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